GERBERA PARTNERSブログ

国際労務|アメリカ海外駐在員へのオバマケアの影響と実務上の注意点

2015/03/10

Q 当社ではアメリカの現地子会社に社員を海外赴任させています。医療保険制度改革(オバマケア)により、赴任者の医療保険にも影響が出ると聞きましたが、実務上はどのようになっていくのでしょうか?

 

A 米国における医療保険制度改革法(オバマケア)は2014年1月からスタートしましたが、ご存じのとおり、国内世論を二分しての国民的な議論になっています。そのような国内事情もあり、日本人駐在員向けのガイドラインも不明確なままです。

 

 今後の状況次第では、日本本社側の労務管理にも大きな影響が出ることが予想されますが、まずは米国における海外赴任者の医療保険制度について確認してみたいと思います。

 

(1)海外赴任者(海外勤務者)の医療保険

 多くの企業では、海外赴任者に対しては、保険料会社負担で海外旅行傷害保険(あるいは海外旅行総合保険)に加入するケースが多いようです。赴任者は現地医療機関に行けば、キャッシュレスで受診することができるため、たいへん利便性の高いものとなっております。

 

 一方で、「海外療養費」という言葉はお聞きになったことがあるかも知れませんが、このような日本の健康保険の給付制度を利用することもできます。

 

 海外旅行傷害保険が適用されない、歯科診療や既往症などは、いったん赴任者が全額の立替払いをしたうえで、日本の健康保険制度における海外療養費から払戻しを受ける形になります。

 

 ただし、あくまでも日本の保険点数に換算されて計算されるため、実際に7割が支給されるケースはほとんどないのが現状です。医療費水準の高い欧米のケースですと、立替払いした費用の2割程度しか支給されないことも多いようです。

 

(2)オバマケアによる日本企業への影響

 オバマケアでは、加入しなければならない最低限の保障(Minimum Essential Coverage)が定められています。しかし、日本の海外旅行傷害保険は、既往症が対象外になるなど、最低基準を満たさないとされるものがほとんどです。そのため、アメリカの法律上、海外赴任者はオバマケア未加入者として、罰金を課されるリスクが高くなります。

 

(3)現地での取扱いはどのようになっているのか?

 弊社パートナーの現地会計事務所に確認したところ、日本人赴任者に対する取扱いについては、いまだ明確なガイドラインがありませんが、2014年度はグレーゾーンのまま黙認されていたとのことです。しかしながら2015年度以降は、制度運用状況からみて、日本人赴任者であっても、オバマケア加入は避けがたいのではないかと予測されています。

 

(4)実務上の影響は?

 現行の海外旅行傷害保険から、オバマケア・マーケットプレイスの医療保険に移行した場合には、年間保険料が大幅に上がることが予想されます。海外旅行傷害保険の年間保険料は20万円前後が相場ですが、マーケットプレイスの場合は年間100万円前後になる場合もあるようです。(年間所得により変動します)

 

 また、保険料が高いプランであっても、最低でも10~20%の自己負担があり、医療費がまったくいらないという便利なプランは無いようです。

 

 赴任者から本社に対して、自己負担分に相当する給与補てんを求める声が大きくなることも予想されます。欧米の医療費水準をベースにした10~20%ですので、手当額としてのインパクトも大きく、グロスアップ等の給与計算実務に対する影響も大きいのではないかと言われています。

 

 現在のところ、日本の健康保険制度や海外旅行傷害保険がオバマケア適合と認められるということも聞かれませんので、今のところは現地の動向をリサーチしつつ、状況に対応できる準備を進めていくことになろうかと思います。場合によっては、海外赴任者の給与制度そのものの見直しも必要となる可能性もあると言えそうです。

 

 弊社では、海外赴任者の給与設計や福利厚生などの規程作りを全面的に支援させていただいており、多くの企業様をサポートしております。制度の見直しをご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。

 

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