GERBERA PARTNERSブログ

年次有給休暇|人事担当者様レベルアップシリーズ ~有給休暇について整理しよう~

2015/02/17

Q 新聞報道で「2016年4月から社員に年5日分の有給休暇を取らせるよう企業に義務付ける」とありました。現在でも有給休暇は与えないといけないものだと思うのですが、何が変わるのですか?

 

A 年次有給休暇(以下、「年休」という)については、労務管理の実務上、注意すべき点が多くあります。今回の法改正について説明するまえに、年休についてポイントを整理してみたいと思います。

 

労働基準法39条

「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」

 

(1)年休は許可制ではない

 判例によれば、「年休は労働者が時季を指定して、使用者に通知することにより成立する」とされており、使用者の承認は必要とされてはいません。実務上は、「所定の申請書を人事部長宛に○日前までに提出すること」といったルールで運用されていることが多いのですが、これを守らなかったことを理由に申請を却下することは、かなり難しいと考えられます。

 

 事業の正常な運営を妨げる場合に限り、会社側に「時季変更権」が認められますが、単に繁忙であることを理由に時季変更権を行使することはできないとされています。(前日に突然申請されて、会社として調整の余裕がまったく無い場合などは時季変更できるとされています)

 

(2)年休の振替

 社員が遅刻や欠勤をした場合に年休で振替をする場合があります。就業規則に定めがあり、社員が希望して会社が認めた場合は、このような事後的な振替も認められるとされています。会社が一方的に振替処理をすることは認められません。

 

(3)年休の買上

 あらかじめ就業規則等で年休の買上を定めることは違法とされています。ただし実務上は、社員の申し出を受けて、会社が買上で対応することはよく行われております。

 

 これは、社員との合意で行っているのでトラブルにならないというだけの話であり、基本的には違法ですので、会社側にリスクが残ります。

 

(4)退職直前の年休消化

 一般的には、有給の消化や引き継ぎ期間を考慮して、退職日を相談することが望ましいのですが、トラブル的な退職の場合、社員が年休消化と称して、一切出勤に応じない場合があります。

 

こうした場合でも、法律上は退職予定日を超えて時季変更を行うことができませんので、会社側で年休を取り消すことはできません。

 

 ただし、年休の権利とは別問題として、業務上必要とされる引き継ぎを一切行わず、会社に損害を与えたことに関しては、懲戒事由として退職金の減額に該当する場合もあります。(こうした規程を就業規則に盛り込んでおくことは必要です)

 

判例でも、退職願提出後14日間については通常どおりの勤務を要する就業規則等があり、年休の取得が結果的に制約される場合でも違法とは言えないとして、引き継ぎとのバランスを考慮している例もあります。

 

 ただし現実的な対応としては、退職日の延長もしくは年休の買取りに応じてもらえるように社員と粘り強く交渉することになると思われます。(退職時の有給休暇の買取りについては認められています。)

 

 人手不足の企業では、退職届を「見なかったこと」にして黙殺してしまうケースがありますが、結果として、業を煮やした社員がこのような極端な手段に走る場合もあります。退職の申し出があった場合には、まずは真摯に話を聞くことが管理者の責務であると考えられます。

 

(5)年休を取得した社員への不利益取り扱い

 一部の会社では、年休取得に応じて、精勤手当を減額したり、賞与のマイナス査定を行っているケースがあります。「年休の取得を理由に、賃金の減額その他不利益取り扱いをしないようにしなければならない」(労基法附則136条)と定められており、望ましいことではありません。

 

 しかしこの条文は「しないようにしなければならない」というあいまい表現を使っていることから、あくまで努力義務規定とされています(判例もそのように判断しています)

 

(6)時間単位年休

 平成22年4月1日の労基法改正で、時間単位で分割取得することが認められました。(1年で5日まで)

 

 予定外に業務閑散となった場合に、午後半休として取得するといった、臨機応変な取得が可能になりました。労務管理は多少煩雑になりますが、できれば就業規則に定めておきたい制度です。

 

(7)年休の計画的付与

 労使協定によって、年休を計画的に付与することができます。社員の申請に対して受け身になるのではなく、会社が積極的に動いていく制度になります。会社の閑散期に合わせて長期休暇を取得させたり、部署ごとに付与時期を変更することで、会社の事業への影響を抑制しながら、取得を促進することができます。(5日分は社員が自由に取得できる分として残しておかなくてはなりません)

 

(8)今回の年休取得義務付けの実質的な意味は?

 年休は社員の権利ですので、社員から請求されれば、会社は断ることができません。この点については、これまでと全く変わりません。

 

 しかし現実問題として、日本では社員が会社に遠慮して、ほとんど取得が進んでいないことが現状です。今回の改正で、社員の申請を待つのではなく、会社の責任で最低5日は取得させなければならないことになります。

 

 これまで同調圧力で何となく年休取得を抑制してきた企業が多いなかで、社員に改めて年休という権利を意識させることが、今回の目的と考えられます。横並び意識の強い日本では、他社がこのように動き始めると、社員への影響はそれなりに大きいものになると予想されます。会社としては、そのような状況に耐えられるような人員管理を行うことが求められています。

 

 労務管理の実務では、様々なパターンに対応できるように就業規則の整備が不可欠になります。弊社では、このような実務上の観点から、就業規則や諸規程のご提案も承っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

 

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