GERBERA PARTNERSブログ

経営|「つながらない権利」時代に中小企業が年度末までに決めるべき3つのルール

2026/02/02

Q、「つながらない権利」って、もう法律で決まっているの?

     

A、 いいえ、2026年2月現在、日本ではまだ法制化されていません。ただし、厚生労働省を中心に労働時間法制の見直し議論が進んでおり、今後の制度化を見据えた対応が求められています。

 

解説(公開日:2026/02/02)

 

なぜ今「つながらない権利」が中小企業でも重要なのか

日本の雇用環境は大きな転換点を迎えています。スマートフォンやチャットツールの普及により、退勤後や休日でも「いつでもつながる」働き方が常態化する一方で、従業員の心身の負担やモチベーション低下が深刻な経営課題となっています。

 

近年、「つながらない権利」という言葉を耳にする機会が増えています。

これは、勤務時間外や休日に業務上の連絡への対応を拒否できるという考え方で、フランスなどではすでに制度化されています。日本ではまだ法改正には至っていませんが、厚生労働省を中心に労働時間法制の見直し議論が進んでおり、今後の制度化を見据えた対応が求められつつあります。

 

特に中小企業では、「明確なルールを決めないまま」運用しているケースも多く、年度替わりを迎えるこの時期に何も手を打たないままだと、労務トラブルや評価制度との不整合につながるリスクがあります。

また、つながらない権利に関する解説記事「「つながらない権利」が義務化へ?企業が準備すべき対応とは」でも詳しく触れられている通り、この権利は単なる「休みの確保」ではなく、企業の生産性や採用力に直結する重要な戦略です。

法改正前の“今だからこそ”中小企業が年度末までに整理しておくべき「3つのルール」について、実務視点で解説します。

 

「つながらない権利」の定義と国際的背景

つながらない権利とは、勤務時間外や休日において、労働者が仕事関連のメール、電話、チャットへの対応を拒否できる権利を指します。

諸外国の法整備状況(2026年時点)

主な内容 該当する国・地域
不利益取扱いの禁止 連絡に応じなかったことを
理由とする解雇等の禁止
EU、イタリア、
オーストラリア等
業務連絡の禁止 時間外の連絡そのものを法的に禁止
(罰則あり)
ポルトガル、オーストラリア等
労使交渉の義務化 行使手順やデジタル利用ルール
策定の義務付け
フランス、スペイン、
ベルギー、カナダ等

特にフランスでは2017年から法制化されており、従業員50人以上の企業には「つながらない権利」の行使方法を協議することが義務付けられています。

 

日本における2026年法改正の動向

日本では2025年12月時点で法的義務化はされていませんが、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」等において、勤務間インターバル制度の義務化検討とともに、つながらない権利の法的な位置付けが議論されてきました

 

2026年の労基法改正においては、以下のポイントが注目されています

  • 勤務間インターバルの強化
    •  11時間の休息確保を原則とする義務化の検討。
  • ガバナンスの明文化
    •  勤務時間とオフタイムを明確に区分する仕組みの導入。
  • ハラスメントとしての定義
    •  緊急性のない時間外連絡の強要をパワハラの一種とみなす指針の整備。

つまり、今後は「法律で禁止されていないから連絡してよい」ではなく、「社内ルールとして連絡の可否を定めているか」が問われる時代になります。今後の法改正や指針の整備が進むと予測されるため、今から準備を始めることが企業のリスク管理として不可欠です。

 

決めるべき3つのルール

1⃣ 勤務時間外連絡の“線引きを明文化”する

「業務連絡は原則として営業時間内に行う」という精神論だけでは、現場の運用は変わりません。実務で使える具体的な線引きが必要です。

 
緊急性と影響範囲で判断する「例外ルール」

すべての連絡を一律に禁止すると業務に支障が出る可能性があります。そこで、「緊急性」と「影響範囲」を軸に、連絡が許容されるケースを具体的に定義します。

  • 緊急性の定義
    •  人命・安全に関わる事故、システム障害、重大なクレーム対応など、即時対応しなければ損害が拡大するもの。
  • 影響範囲の考慮
    •  翌営業日の対応では顧客や取引先に甚大な不利益が生じる場合など。
 
連絡手段の使い分け(通知・返信基準)

ツールごとのルール設定も有効です。

  • メール
    •  深夜・休日の送信自体は禁止しないが、「返信は翌営業日で良い」ことをシステム上の自動返信や署名で明示する
  • チャット・電話
    •  緊急時以外は通知をオフにする、または送信を控える。
  • 管理職向け基準
    •  「念のため」や「思いついたから」という理由での送信を禁止し、送信予約機能を活用させる。
 

2⃣ 評価制度と「つながらない権利」を両立させる

従業員が最も懸念しているのは、「連絡に対応しないことで評価が下がるのではないか」という点です。調査では、約半数の労働者が「つながらない権利」行使による勤務評価への悪影響を心配しています。

 
連絡に応じない=評価が下がらない仕組みの明言

人事評価制度において、以下の点を明確にする必要があります。

  • 不利益取扱いの禁止
    •  勤務時間外の連絡に応じなかったことを理由に、人事考課を下げたり、不利益な取り扱いをしたりしないことを就業規則や労使協定に明記する。
  • 「つながること」を評価しない
    •  「いつでも連絡がつくこと」を責任感や忠誠心として評価する風土を改める。逆に、限られた時間内で成果を出すことを評価の主軸に置く。
 
部門ごとの対応方針の差異

全社一律ではなく、職種(営業、保守、事務など)の実態に合わせたルール設計が重要です。例えば、緊急対応が必須の保守部門では「当番制」を導入し、当番以外の社員は完全にオフにするなど、メリハリのある制度設計が求められます。

 

3⃣ 管理職と現場の判断基準を揃える

ルールを作っても、現場の管理職が迷えば形骸化します。管理職が判断に迷わないための「フローチャート」や「基準」を策定しましょう。

 
現場で使える判断フロー例
  1. 1.【緊急度:高】(安全・事故・システムダウン)
    •  即時電話連絡OK。対応した時間は労働時間としてカウントし、割増賃金を支払う。
  2. 2.【緊急度:中】(翌朝一番で対応が必要な案件)
    •  メールやチャットで送信予約、または「返信不要」と明記して送信。受信側は通知OFF推奨。
  3. 3.【緊急度:低】(単なる報告・相談)
    •  翌営業日に連絡。時間外の送信はハラスメントリスクがあることを認識させる。

このような基準を管理職研修で徹底し、「部下の私生活に介入しないこともマネジメント能力の一つ」と定義づけることが重要です。

 

「つながらない」実態と健康への影響

連合の調査(2023年)によると、雇用者の72.4%が勤務時間外に連絡を受けており、そのうち62.2%がストレスを感じていると回答しており、内容が気になってしまいストレスを感じると回答した人は60.7%とのことでした。

参考資料:“つながらない権利”に関する調査2023 (連合(日本労働組合総連合会):PDF)

最新の研究では、勤務時間外の連絡頻度が高い従業員は、仕事との心理的距離が取れず、精神的健康度が悪化する可能性が示されています。特に「出社勤務」と「時間外連絡」が組み合わさった場合、疲労回復が不十分になり、抑うつ感が高まるリスクが指摘されています。

 

法改正を待たずに制度設計を始めることは、離職防止や「働きやすい企業」としてのブランディングにつながります。

「つながらない権利」を踏まえた社内ルール設計や評価制度の整理について、中小企業に最適化した人事制度・労務体制の設計をご支援しています。

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