2015/10/20
A、セクシャルハラスメント、パワーハラスメントに続き、マタニティハラスメント(通称:マタハラ)という言葉が一般化してきました。人事労務管理がますます複雑化している状況ですが、今回は、「マタハラとは何なのか?」という点について説明してみたいと思います。
厚生労働省のパンフレットには以下のようなキャッチフレーズが書かれています。
「STOP!マタハラ」
経営難や能力不足を口実に掲げながら、妊娠・出産などを理由に、解雇やパートへの契約変更など不利益な取り扱いを行うことは違法です。
例として、次のような例が挙げられています。
よく耳にするような事例が並んでいますが、マタハラとは「産休育休を口実にした様々な不利益取り扱い」ということで、かなり広く解釈されていることに注意が必要です。
企業としては、それなりに理屈の通った話として対応したつもりが、法律的な観点からするとマタハラになり得るということがあり得ます。
特に、ギリギリの人員で業務を回している現場にとっては、産休・育休で1年以上休まれると代替人員に困るので、「いっそのこと辞めてもらったほうが…」という本音が聞かれることもあります。これまで「何となく、辞めていただく」という職場慣行に慣れてしまっていた企業は、このあたりで考え方の転換が必要になりそうです。
人手不足社会が顕在化し、現政権が「1億総活躍社会」を掲げ、とりわけ女性の活躍を重視している時代ですので、旧態依然とした「寿退社」感覚を切り替えていく必要がありそうです。
では具体的に、労務リスク対策としての実務上の注意点を見ていきたいと思います。厚生労働省のガイドラインが参考になります。
原則として、妊娠・出産、育休等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断します。ただし、事由の終了から1年を超えている場合であっても、実施時期が事前に決まっている、又は、ある程度定期的になされる措置(人事異動、人事考課、雇止めなど)については、事由の終了後の最初のタイミングまの間に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断します。
例えば、妊娠ではなく、あくまで人事評価によるといったような口実であったとしても、1年という時期的な判断基準で判定されてしまいますので、このタイミングで何らかの待遇変更を実施するのは労務リスクが高いと思われます。
「マタハラの疑い」と言われないように、不利益取扱いになり得るかどうか、本人の意向も含めて慎重に検討することをお勧めします。
このガイドラインのきっかけとなった「広島中央保健生活協同組合事件判決」(最判平26.10.23)をご紹介します。
この事案では、妊娠した労働者が病院内リハビリ業務への配置換えを希望したことに対して、「副主任から降格になることを伝えることを忘れていたなどと説明し、しぶしぶながらも、一応本人の了解を得た。」という微妙なやり取りを経て、副主任から降格させ、復帰後も副主任に戻さなかった事案です。結果として、雇用機会均等法第9条第3項に違反し無効である、という趣旨の判断が下されました。
仮に本人の了解を取ったとしても、不利益措置の説明が不十分で、本心から納得しているような状況でない場合は、マタハラが成立しうるという点で、労務管理上も注意が必要です。
また、最近ですが男女雇用機会均等法第30条に基づき、マタハラに対するペナルティとして企業名が公表された事案を紹介します。これは初の公表事案です。
最後に、ご参考までに、関連法令を記載しておきます。
事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、産前産後休業をしたこと、妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したことを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。
厚生労働大臣は、規定に違反している事業主に対し、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。
ハラスメント対応は、企業のコンプライアンス対策として必須となっています。行政リスクのみならず、レピュテーションリスク(風評リスク)という観点が中小企業にも求められます。ブラック企業というレッテルが貼られてしまうと、インターネットやSNSで容易に拡散する状況です。ビジネスそのものだけではなく、人材確保にもマイナス影響が出てしまいます。
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