2015/09/15
Q キャリアアップ助成金の申請を検討しています。厚生労働省の「申請の手引き」は一読したのですが、他にもいろいろと注意すべき点や確認しなくてはならない点があると聞きました。専門家ならではのアドバイスをいただけませんか?
A キャリアアップ助成金は、制度としては比較的シンプルな助成金なのですが、部分的に専門家でないと分かりにくいポイントがあります。今回は、キャリアアップ助成金の中でも分かりにくく、皆様からよくご質問をいただく点について、実務上の注意点を交えながらお答えしたいと思います。
【ご質問1】
「キャリアアップ助成金はいつまで続くのですか?」
「予算があるので、先着順で締め切られてしまう恐れはないですか?」
助成金の金額が一人50万円(正規転換コースの場合)と高額なこともあり、予算枠についてご心配をいただくことがあります。キャリアアップ助成金については、政府も力を入れて予算措置を講じておりますので、件数や予算の上限枠で締め切りという運用はないようです。
労働局に確認したところ、次年度以降については確実なことは言えないものの、今のところ予算が尽きるという状況は考えられないということで、現状の内容で継続できる見込みであるとのことです。
キャリアアップ計画書を提出するのは、さほど難儀な作業ではありません。また、提出したからと言って、今すぐに正社員転換を行わなければならないということはありませんので、まずは計画書に着手して準備だけは進めておいてもよさそうです。
【ご質問2】
「正社員転換とはどのような基準で判断されているのですか?」
正社員の定義は、会社によって違いますが、その会社の就業規則で定められた正社員の待遇が他の方々と同様に適用されていれば、正社員転換とみなされます。
一般的に、正社員とは、「無期雇用」「人事異動あり」「転勤あり」「賞与あり」「退職金あり」というイメージですが、必ずしも全てを満たす必要はありません。あくまで会社の就業規則どうりの待遇になっていることが、雇用契約書で確認できれば、問題ありません。
逆に言えば、無期雇用にしただけでその他の労働条件が非正規雇用と変わらないケースでは、「正規転換」ではなく、「無期雇用転換」として別のコースとして扱われます。助成金の金額が50万円ではなく、30万円になるほか、給与が5%以上アップしていなければならない等の要件が追加になりますので、ご注意ください。
また、最近は「多様な正社員」というものがあります。「短時間正社員」「地域限定正社員」「職務限定正社員」などを指し、これは純粋な正社員ではありませんが、「多様な正社員への転換コース」として助成金の対象になります。
【ご質問3】
「請負や派遣社員を正社員にするのも対象になるのですか?」
請負を直接雇用した場合は助成金の対象外となります。そもそも請負が雇用関係類似の状況で働いていた場合は、偽装請負の疑いがあります。助成金をご検討の前に、そうした点を整理していただくようにご注意ください。
一方、派遣労働者を直接雇用する場合は助成金の対象になります。派遣労働者は雇用契約書がありませんが、労働者派遣契約書と派遣先管理台帳を添付することで、助成金の申請が可能です。
【ご質問4】
「紹介予定派遣も対象になるのですか?」
キャリアアップ助成金の要件に「正社員として雇用することを約して雇入れられた者でないこと」という要件があるので、この点で疑義照会をいただくことがあります。
実際に弊社の専門家が、助成金事務センターの審査担当官に確認したところ、確約があるような特殊な紹介予定派遣であれば対象外ですが、一般的な紹介予定派遣(正規雇用の確約がない)であれば問題ないとの見解でした。
なお、「紹介予定派遣」とは、派遣先に直接雇用されることを前提に、最長で6か月間、派遣労働者として働き、期間終了時に会社と本人が合意した場合に社員として採用される派遣パターンです。「6ヶ月以上の期間継続して派遣として受け入れていた」という助成金の要件も満たすことができます。
紹介予定派遣については、就業条件明示書に以下の点を明記しなければなりませんので、ご注意ください。
紹介予定派遣に関する事項
1.紹介予定派遣であること
2.派遣先が雇用する場合に予定される労働条件等
【ご質問5】
「申請から支給までにかかる期間はどのくらいですか?」
上記の審査担当官によれば、ピーク時は6ヶ月以上かかることもあったそうですが、現在は事務の効率化などを進め、比較的短くなっていることでした。
しかし、申請は増加傾向にあるので、今後についてはお約束できるものではないとのことです。やはり、会社としては余裕をもったスケジュールで進めていいただくことが重要になってくるようです。
あらゆる業種で人材不足が叫ばれる中、若手の採用難に直面する中小企業にとっては、優秀な人材の正社員化は、人材確保の点から積極的に進めていかなくてはなりません。
政府も予算措置を強化して支援している制度ですので、ぜひ積極的にチャレンジしてみてください。
弊社では、就業規則や人事評価制度の整備と合わせて、助成金についてのご相談を承っております。手続や運用も含め、お気軽に当グループ社会保険労務士までご相談ください。
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