2016/07/27
Q 当社では、海外駐在員の安全を考慮し、駐在員向けの海外傷害保険をかけています。十分な補償内容だと思うのですが、さらに労災保険の特別加入をした方がよろしいのでしょうか?
A 2016年4月27日、東京高裁で、海外駐在員(運送会社社員・上海駐在)の労災適用についての逆転判決があり、大きな話題になりました。
この男性は、海外派遣者に必要な「第三種特別加入」をしておらず、一審の東京地裁では、労災保険の対象外と判断されてしまいました。
第二審の東京高裁では、「仕事の内容や国内拠点からの指揮命令などを総合的に判断すべきだ」と指摘。東京の本社に業務の決定権があったことや、出勤簿を本社に出していたことから「男性は実質的には国内の事業所に所属していた」と判断し、労災適用が適当と判断したものです。
結果的に、労災保険により、この海外駐在員は補償されたわけですが、
この事例は、海外進出をしている企業にとっては、改めて海外駐在員の安全管理及び処遇の見直しを考えるきっかけになるのではないでしょうか。
(1) そもそも会社の責任は?
まずは大前提としてご認識いただきたいのは、海外駐在員が、業務中に万が一の事態があったときは、原則としては、会社が全額補償する責任があるということです。
日本国内では、何か事故があっても、ほぼ自動的に労災保険で賄われるので、会社の責任が見えにくくなっているのですが、海外駐在員の場合で、労災保険が適用されない恐れがあり、その場合は、会社が全額負担ということになります。
(2) 会社の責任と労災保険の関係とは?
会社の補償責任については、労働基準法で明確に規定されており、海外駐在員も「労働者」ですので、日本本社に責任が発生します。
労働基準法第75条(療養補償)
労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
労働基準法第79条(遺族補償)
労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、遺族に対して、平均賃金の千日分の遺族補償を行わなければならない。
労働基準法第84条(他の法律との関係)
この法律に規定する災害補償の事由について、労災保険法に基づいて給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。
以上から分かるように、労災保険法が適用されたときに、初めて会社の責任が軽減されるのです。
また、労災民訴と言われるように、遺族側が労災保険の金額で納得せず、それを超えて補償を求めてきた場合は、民事訴訟になり、その負担は会社が負うことになるのです。また、海外での緊急搬送や医療機関で発生した費用も同様に会社負担になります。
民間の海外旅行傷害保険は、そうした追加費用に対応するものですので、死亡や高度障害等の重大な事故そのものに対応する補償ではないということはご理解いただけるかと思います。
近年は、紛争地域でなくとも、テロや不慮の事故に巻き込まれる危険が常にあります。会社としては、万が一に備え、労災保険の特別加入手続は確実に取っておくべきものと思われます。
第三種特別加入は、管轄の労基署で簡単に手続できますが、通常の労災保険とは異なり、自動加入ではありませんので、「うっかり忘れ」がないように本社側で注意が必要です。
次回は、具体的な加入方法や注意点について確認していきたいと思います。
弊グループでは、日系企業様の海外進出を支援させていただいており、海外駐在員の給与、所得税、社会保険、福利厚生等の労務管理のご支援をさせていただいております。ぜひお気軽にご相談ください。
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