2018/04/25
法令上、1年変形を採用する際に課される制約事項は、次のような点があります。
1年変形では、通常は1年を単位として、労働日と労働日ごとの労働時間(要は、「年間勤務シフト」)を定めることになります。
この場合、「1年間の勤務シフトをあらかじめ定める」というのが建前なのですが、実務的に1年分をまとめて事前に定めるというのは無理があります。
そのため通常は、次のような運用が行われるのが通例です。
例えば、4月1日~翌年3月31日までの1年変形を採用する場合に、
例えば、5月は「18日」「144時間」、6月は「20日」「160時間」、7月は「25日」「200時間」などと決めておきます。5月以降の、具体的な月次勤務シフトについては、法令上、「その月の初日の30日以上前に、従業員代表の同意を得て、書面で定める」必要があります。
その際の注意点ですが、例えば、7月シフトは、6月1日には定める必要があります。
ここでご検討いただきたいのは、例えば店舗や現場系の繁忙な現場仕事で、7月シフトを6月1日までに確定させるのが現実的なのかという論点です。
そもそもそのような運用が難しいのであれば、1年変形を安定的に維持するのは難しいという判断になります。
1年変形は、原則としてシフト変更(出勤日の変更、始業終業時刻の変更)ができる制度ではありません。現場の繁閑に合わせて、柔軟にシフト変更を従業員に指示することはできません。
法令上、シフト変更(出勤日の変更、始業終業時刻の変更)に関する定めが明確ではないのですが、一度確定された勤務シフトを会社都合で変更する場合には、少なくとも労働者の同意が必要と解釈されます。
それであっても、頻繁にシフト変更が発生するような実態だと、「実態として1年変形が機能しておらず形骸化している」と解釈される可能性があります。
1年変形を活用しない場合、労働基準法の週40時間規制がありますので、1か月の所定労働時間の上限は、177.1時間(暦日31日の場合)となります。
1年変形は、そうした単月制限を取り払い、月によって変動(例えば、今月は150時間だけど、来月は200時間など)を認める方式です。
ここで問題になるのが、200時間働いたあとに、1年変形の期間が満了するまえに退職といったケースです。1年変形は1年通して勤務することで帳尻が合う制度ですから、途中入退社については、「週40時間規制を超過した分は割増賃金の精算が必要」と通達で指示されております。
実務的に、こうした取扱いをきちんと実施できている企業は限られると思われ、管理本部サイドで相当の運用コストを払わなければ、安定的な運用は難しいと思われます。
事実上、時間外労働が一切ありえないという企業は存在しないと思いますので、36協定の締結は全ての会社で必須です。
36協定を締結する際の「上限時間」については、「時間外労働の限度に関する基準(平成 10 年労働省告示第 154 号)」が定められています。
一般的には、1か月45時間、1年間360時間という基準となりますが、1年変形では、1か月42時間、1年間320時間となり、ハードルが厳しくなります。
かつてであれば、36協定はとりあえず提出すればOKという慣行もあったようですが、昨今では、36協定は締結して、届出して、内容を遵守して、更新していくといった実運用が問われています。その上で、現実問題として超過があるのであれば、特別条項が必要です。
1年変形を採用している企業は、現場が繁忙な業種が多いのですが、長時間残業の実態にありながら、形式的に「1か月42時間、1年間320時間」と締結し、それを恒常的に超過しているという事例も多く、違法残業として労働基準監督署の臨検を受ける等のトラブルも散見されます。
他社より、厳しい残業規制を課してまで、本当に1年変形は必要なのか、再検討が必要と思われます。
※36協定と同様に、1年ごとの更新が必要になります。
(更新を忘れると制度として無効になりますのでご注意ください。)
以上のような各種規制があります。
1年単位で柔軟な労働時間設定という表面上のイメージに流されず、本当に必要な制度であるかを、自社の実態に合わせてご検討いただく必要があります。
(1年変形を廃止して、「1か月変形」「原則的労働時間制度」「フレックスタイム制」の組み合わせによって、自社に合う労働時間制度を実現している企業も多数ございます。)
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