2015/04/07
Q 社員のダラダラ居残り残業を防止したいと考えております。この機会にタイムカードをやめて別の方法で時間管理をしたいと思いますが、どのような方法が可能ですか?
A 多くの会社では、タイムカードで労働時間を算定していますが、一部の社員がダラダラ残業した結果、仕事をしていない時間までが残業代の対象になることは、コストや公平の観点からも問題があります。
労働基準監督官は、客観的な方法としてタイムカードを推奨していますが、法律上は必ずしもタイムカードを使用しなければならないという義務はありません。(なお役所ではタイムカードは使われていないという裏話があります・・・。)
この問題を判断する上で判断基準となるのは、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」(平成13年4月6日基発339号)、いわゆる「46通達」と呼ばれるものです。この46通達をもとに、実務上のポイントを整理してみたいと思います。
(1)労働時間管理の対象者
労働時間の適切な把握を行うべき対象労働者は、「管理監督者」および「みなし労働時間適用者」を除く全ての者です。
ただし、除外される者であっても、健康確保を図る必要性があることから、最低限として、始業と終業時刻などは把握しておく必要があります。
会社が労働時間を把握していない場合、労使間での訴訟になったときは、会社は訴えた社員側の言い分をすべて受け入れなければならない事態に陥る恐れがあります。十分にご注意ください。
(2)始業・就業時刻の確認をする方法として認められるもの
原則的方法1-使用者が自ら現認
原則的方法2-タイムカード・ICカード等
例外的方法3-社員の自己申告制
(3)タイムカードをやめて自己申告制に切り替えることは可能か?
自己申告制については、虚偽報告や記録改ざんが問題になりやすいので、通達により以下の点で注意が求められています。
◆適正に自己申告を行うように、事前に十分な説明を行うこと
◆適正な自己申告を行ったことにより不利益取扱を行わないこと
◆使用者は必要に応じて実態調査を実施すること
◆適正な自己申告を阻害する目的で「残業時間の上限設定」を行わないこと
◆「職場ごとの割増賃金予算枠」「残業が多い者に対する賞与減額措置」などは不適切であること
以上の点に注意をすれば、自己申告制を行っても違法ではありません。
(4)社員の勝手な残業を禁止して残業申請書による許可制にすることは可能か?
「適正な運営」と「従業員本人に時間外労働申請の自由が担保されている」のであれば、申請に対して許可されたものだけを残業時間と認めることも可能であると解されています。
個々のケースにより判例は様々ですが、以下のような事例では不適切とされています。
◆上司が個別具体的に判断せず、残業カット目的で、一律に不許可にしているような場合
◆手続きが形骸化している場合(制度が利用されていない、申請書が存在しない、許可する上司が不在)
◆仕事の状況や内容から客観的に見て、所定労働時間内に終わらない
◆従来の職場慣行から見て、時間外労働が当たり前になっている
◆時間外労働が慢性化して、社員にとってほぼ義務化しているとき
なお、労働基準監督署は、タイムカードによらない、自己申告制や残業申請許可制にはあまり前向きではありません。極端な場合は、違法であると指導してくるケースもあります。
上記のような制度を導入するためには、タイムカードをやめた理由が、残業隠し目的であると疑われないように、適正な運用を徹底する必要があります。また実務上も、会社と社員の間に信頼関係がなければ、かえってトラブルの元となり、大きなリスクが残る制度になってしまします。
業務改善を行わないまま、会社が一方的な残業カットとして強行してしまうと、労働基準監督官からサービス残業隠しと疑われ、パソコンのログなどから残業時間を算定されてしまうような事例もあります。また不満をもったまま退職した社員が、退職後に自分のメモ帳を証拠に過去の未払残業代が請求してくる事例もあります。
このような場合は、タイムカードが無いことがむしろ会社にとって不利な状況となり、パソコンログやメモが全面的に証拠として認定される場合あります。
(5)残業時間を減らすために
自己申告制や残業申請許可制を導入するにあたっては、明確なルールつくりと同時に、業務改善も進めることが大切です。
他社事例ですが、以下のようなものがあります。
◆ 効率の悪い夜間残業を禁止する代わりに、効率の良い早朝早出を推奨する
◆ 資料作成など、集中的な作業を行う場合は在宅勤務を認める
(通勤や社内雑用で時間が浪費されないため、短期集中で完了できる)
◆ 管理監督者が率先して退社時間を厳守して、つきあい残業を抑制する(管理監督者は、自分が残業手当の対象外なので、残業に対して鈍感になりやすい)
以上のように労働時間の削減は、臭いもの蓋するような対症療法ではなく、経営者自らが方向性を打ち出さなければ根本的な改善は難しいものです。
平成31年4月1日からは、中小企業であっても、月間60時間超の残業は50%割増となります。今後、長時間労働抑制のための規制は強化される一方ですので、経営課題としてご検討いただきたいと思います。
弊社では、実務上の観点から様々な労働時間管理制度のご提案を承っております。就業規則や諸規程の改正も含め総合的な対策も承っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
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