GERBERA PARTNERSブログ

労務管理|固定残業代制度の注意点

2021/03/19

Q、当社の従業員の給与制度の見直しを検討しており、新たに固定残業代の制度を導入しようと考えております。制度の導入にあたり注意しないといけない点を教えてください。

A、固定残業代の制度の導入の際は、「固定残業代の根拠を明確にする」ことと「固定残業代を上回る残業代の支払い」の2点に注意する必要があります。制度が曖昧で、従業員と争いになると固定残業制度そのものが否定されることもありますので注意しましょう。

 

解説(公開日:2021/03/19  最終更新日:2021/03/20 )

 

従業員に対してあらかじめ定額で残業手当を支給する固定残業代の制度ですが、実は労働基準法上では制度を導入する上での明確な基準や定めはありません。ただし、固定残業代の制度を導入する際はいくつかのポイントを抑える必要があります。このポイントを抑えずに制度導入をすると、従業員との間でトラブルが起こってしまうこともあり、例えば裁判などの争いになると固定残業代の制度そのものを否定されることもあります。固定残業代の制度を正しく運用するために気をつけるべきポイントについて述べていきます。

 

1.固定残業代の根拠を明確にする

固定残業代の制度の運用に関してのポイントの一つに、固定残業代の根拠を明確にするというものがあります。例えば

  1. ・基本給の中に「残業代を含む」という記載だけで金額の記載がない。
  2. ・「基本給のうち5万円は固定残業代」というふうに金額の記載があるものの、その金額の根拠がわからない

上記のように「固定残業代の金額がわからない」「固定残業代の金額の計算根拠がわからない」などの運用をしている場合は、裁判等の争いになった際に、固定残業代の制度が否定されることもあります。

 

よって、固定残業代の根拠を明確にするために、以下の点に注意する必要があります。

 

「固定残業代部分」と「そうでない部分」を明確にする

一番わかりやすいのは、「固定残業手当」という名称で別に手当を支給することにより、そのほかの給与項目と明確に分離させることが望ましいです。

 

固定残業手当として支給している金額の根拠がはっきりと理解できる状態にする

例えば「固定残業手当は30時間分の時間外手当相当額である」というふうに時間数などを明確にすることです。そして実際に法令に基づいて計算した結果も、30時間分の時間外手当の金額相当額になっていることです。

 

従業員各人の労働条件通知書や給与明細などで、固定残業代の金額、時間数などを明示する

書面で従業員にしっかりと明示することにより、従業員がその固定残業代の認識ができる状態とすることが望ましいです。

 

2.固定残業代を上回る残業代の支払い

固定残業代を支払っているが、1ヶ月の残業手当を計算した場合、その残業手当の金額が固定残業代の金額より大きくなった場合は、会社は当然にその差額を支払う必要があります。もし、その差額を支払わない場合は、その差額は当然残業手当の未払いとなります。

よって、固定残業代の制度を導入したとしても、月々の残業手当については、別途法令に基づいた計算処理を行う必要があります。そして固定残業代の金額より実際に計算した残業手当の金額が多い場合は、その差額を支払う運用が必要となります。

 

3.固定残業代の制度が否定されると

固定残業代については、会社と従業員との間で争いになるケースはよくあり、裁判例も多くあります。そして裁判などの争いの中でもしこの固定残業代の制度そのものが否定されると、会社にとって二つの大きな問題が起こります。

 

一つは今まで残業代の全部または一部を固定残業代として支払っていたものが、固定残業代は残業代の支払ではないとなってしまう点です。そしてもう一つは残業手当を計算する際の基礎給与から固定残業代を除いて計算していたものが、固定残業代の金額も基礎給与に含めて計算しないといけなくなるという点です。

 

一例として、基本給20万円、固定残業手当5万円を支払っている従業員について、ある月の残業手当を計算すると4万円であったケースで考えてみます。

 

固定残業代の制度が適切に運用されている場合は、固定残業手当5万円のほうが、実際の勤務に基づいて計算した残業手当の4万円より多いので、追加で残業代を支払う必要はありません。また、その残業代を計算するための必要な基礎給与の金額は基本給の20万円を基に計算します。

 

ところが、固定残業代の制度が否定されてしまうと、固定残業手当として支払っていた5万円は残業代でなくなってしまいます。よって残業手当4万円はそのまま支払う必要があります

 

さらに固定残業手当として支払っていた5万円も残業代を計算するための基礎賃金に含めて計算し直す必要があります。(上記の例であれば残業代を計算するための基礎賃金は20万円から25万円になります。)よって1時間あたりの残業手当の単価が高くなりますので、実際の残業手当の金額は上記の4万円よりもさらに多い金額となってしまいます。

 

裁判例では、上記1,2の要素を全て満たさないと固定残業代として認めないという判例や、1,2個別に判断して固定残業代の適用性を検討する判例など多々ありますが、いずれにせよ、固定残業代の制度の運用が不十分である場合、争いごとになると固定残業代の制度そのものを否定され、多額の未払い残業代を支払わないといけない可能性があります。

 

4.まとめ

固定残業代の制度を導入している企業は、その制度が否定された際、残業代未払いの金額は多額となり、企業経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。固定残業代の制度を導入する際は、上記1,2のポイントを考慮して制度設計を行い、後に従業員とトラブルが起こらないような運用をしてまいりましょう。

 

社会保険労務士法人ガルベラ・パートナーズでは、この固定残業代の制度をはじめ、企業様の労務管理のご相談に実務上の観点からきめ細やかにお答えしております。労務管理でお悩みの場合は、お気軽に下記お問合せフォームよりお申し付け下さい。

     
 

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