2015/06/23
Q 当社ではフィリピン進出を検討しています。人口も多く、市場としても有望と聞いております。将来的には現地子会社を設立して、駐在員を送るつもりですが、フィリピンの個人所得税や社会保険制度がどのようになっているか教えてもらえませんか?
A つい先日ですが、6月2日から5日にかけて、フィリピンのベニグノ・アキノ3世大統領が国賓として来日されました。日本のODAに対する感謝や今後のインフラ整備への展望も述べられ、今後ますます日比間の経済関係が強化されていくものと思われます。(日系企業のフィリピン進出に不可欠のPEZA[経済特区庁]のデリマ長官も同行され、企業向けのセミナーも開催されたようです)
一億人超の巨大な消費市場を有し、若い労働力人口が豊富である点、また安定した経済成長に対する評価が高まっています。一方で、進出している日系企業の声を聞くと、不透明な行政や慢性的な渋滞、電力不足などインフラ面の不備もまた指摘されています。
今回は、改めて投資先として見直されているフィリピンについて、日系企業から派遣される駐在員の所得税や社会保険に関する情報をご案内してまいりたいと思います。
(1)フィリピンの個人所得税について
日本と同様に、課税年度は1月1日~12月31日となっており、毎月の給与から源泉徴収されます。また確定申告もあり、翌年の4月15日までに申告納付をすることになります。
フィリピンへ進出する企業にとって苦しいのが、個人所得税の高さです。見かけ上の最高税率は32%と、さほど高い印象を受けないのですが、年収ベースで約70万円を超えた段階から最高税率適用となってしまいます。また所得控除もほとんどありませんので、ほぼ丸々が課税所得になってしまうという事情もあります。
結果として、日本人駐在員の所得税は、ほぼ確実に実効税率30%超となってしまいます。ASEANの中では、最も所得税負担の重い国の一つであると言えるでしょう。
また海外駐在員の場合は、現地法人から社宅が支給されることが多いのですが、こうした社宅も現物給与として家賃相当額の全額が課税所得になりますので、さらに税負担を押し上げることになります。
また、家族帯同で赴任する場合は、子女教育手当が支給される場合が多いのですが、こうした手当も課税所得になります。
こうした点も含め、フィリピン赴任者については、総支給額を必要以上に膨らませないように、給与設定をしなくてはなりません。人選において独身者から選抜したり、単身赴任での海外赴任を推奨するなどの対応が必要になると思われます。
(2)フィリピンの社会保険について
次のような種類があります。
◆ SSS(社会保障制度=年金制度)
保険料率11.0%(会社7.37% 従業員3.36%)
報酬月額の上限 16,000ペソ
◆ PhilHealth(公的医療保険)
保険料率5.0%(会社、従業員ともに2.5%ずつ)
報酬月額の上限 35,000ペソ
◆ Pag-IBIG(持家促進相互基金)
保険料率4.0%(会社、従業員ともに2.0%ずつ)
報酬月額の上限 5,000ペソ
上記の社会保険への加入ですが、原則として外国人駐在員も強制加入です。ただし、保険料率や報酬月額の上限はそれほど高くありませんので、実質的な負担は比較的低いかと思います。
海外現地での社会保険料はグロスアップ計算により、会社が負担する場合が多いかと思いますが、上記のとおり、最大でも月額4,000ペソ(日本円で10,000円程度)は超えません。中国など、社会保険料負担の重い国に比較すれば、ずいぶんコストダウンになる計算です。
また、他のASEAN諸国同様に、フィリピンも社会保障協定がまだ締結されていません。現状では日本と海外現地での二重加入を防ぐ方法はありません。海外駐在員は、日本の社会保険を継続していますので、フィリピンの社会保険料は払うだけという形になってしまいます。
※上記の社会保険データは2013年現在の公的資料を元にした参考データです。具体的なご検討の際は、現地当局もしくは現地専門家等に必ず最新の情報を確認するようにお願いいたします。
なお、他国との比較をご覧になりたい方は、下記にベトナムの所得税・社会保険についての記事も掲載していますので、こちらをご参照ください。( Q&Aブログ2015年5月26日掲載 海外駐在員の所得税と社会保険~ベトナム編~)
海外駐在員の処遇については、給与や税金のみならず家族の問題、移転費用の問題、健康管理や休暇、福利厚生など、決めなくてはならない問題が多数あります。弊社では専門のコンサルタントがこのような問題を一つ一つヒアリングさせていただき、国際労務・国際税務の点から、海外進出の支援をさせていただいておりますので、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。
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