2018/03/28
A、近年、ハラスメントへや労務トラブルに対して意識が高まっています。 さらにはスマートフォン等の電子デバイスがますまる高機能になっていくことから、トラブルの証拠として社員による「隠し録音」が常套手段となっております。隠し録音が裁判上の証拠となるかについては、「違法収集証拠」の観点から検討が必要ですが、隠し録音であることをもって直ちに証拠能力が否認されるものではないため、会社側としては、録音されることを前提とした緊張感を持った対応が求められます。
2017年6月の豊田真由子議員のハラスメント音源問題は、センセーショナルな内容もあって記憶に新しいところですが、政界における、パワーハラスメントの実態を生々しく伝えるものでした。会社や使用者側の対応として、ハラスメント防止を検討する上で、たいへん示唆に富んだ事例といえます。
また、最近の事例としてでは、ハラスメントではありませんが、大阪府の特別支援学校で女児がいじめに遭った問題の対応を協議するため、自宅を訪れた校長が、トイレに立った母親について、同席した教諭らに対し「うんこか」「お礼を言ってすぐ終わらそう」などと発言したことが問題になりました。これも母親によるボイスレコーダー録音から発覚した問題でした。
前述の議員にせよ、校長にせよ、よもや自分の発言が録音されていることなど想定もせず、ある意味無邪気に自らの感情のままに振る舞っているわけで、組織の管理者としての緊張感が欠けているように思われます。(発言内容自体、人として水準未満と思われますが。)
組織内ヒエラルヒーで上位に立つ存在になりますと、内部的には批判を受けることも少なくなり、そうした奢りか慢心か、発言が甘くなり、結果として思わぬところから反撃されるという意味では、企業の人事労務管理においても参考になります。
人事労務管理の世界では、会社と社員の間で、厳しいやりとりがなされることが日常的に発生します。「業務や営業成績の進捗についての追及・叱咤激励」「能力や業務クオリティについての否定的な評価」などシビアなやりとりがなされる中で、不満を持った従業員が隠し録音するというのは十分に発生し得るシチュエーションと言えます。近年のビジネス環境においては、経営者・人事労務担当者・部門長など、そうしたリスクを十分に想定した対応が求められることになります。
そもそもこのような隠し録音が、事案の証拠として許容されるかという問題について、リーディングケースをご紹介いたします。
本件は、所属する部署の上司からパワー・ハラスメント及びセクシャル・ハラスメントを受けたとして、社員が損害賠償請求を提訴した事案ですが、その判断内容のなかで、非公開委員会の審議内容を秘密録音したことについての検討がなされております。
『(前略)そこで,検討するに,民事訴訟法は,自由心証主義を採用し(247条),一般的に証拠能力を制限する規定を設けていないことからすれば,違法収集証拠であっても,それだけで直ちに証拠能力が否定されることはないというべきである。しかしながら,いかなる違法収集証拠もその証拠能力を否定されることはないとすると,私人による違法行為を助長し,法秩序の維持を目的とする裁判制度の趣旨に悖る結果ともなりかねないのであり,民事訴訟における公正性の要請,当事者の信義誠実義務に照らすと,当該証拠の収集の方法及び態様,違法な証拠収集によって侵害される権利利益の要保護性,当該証拠の訴訟における証拠としての重要性等の諸般の事情を総合考慮し,当該証拠を採用することが訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)に反するといえる場合には,例外として,当該違法収集証拠の証拠能力が否定されると解するのが相当である。(後略)』
要は、法令上、証拠能力の規定は存在せず、秘密録音であっても証拠になり得るということが述べられております。(ただし、本件においては結果的には否定される結果になりました。)
会社の就業規則に、事業場内に私物のスマートフォン等の持ち込みを禁じる規定を作成することは可能と思われます。
ただし、今まで放任してきたものを突然規定によって禁止しようとする場合は、不利益変更に該当する可能性があります。また感情的に管理強化への反発も十分に予想されます。
実施にあたっては、その趣旨を丁寧に説明して理解を求める必要があると思われます。また、持ち込みを禁じる以上は、鍵付きロッカー等の保管場所の確保したり、業務用の携帯電話や端末を別途支給するなど、コストの発生する対応も必要になります。
一方では、個人端末を業務私用させることで会社の費用負担を抑えながら、他方で業務外使用を禁じるという運用は、不合理なダブルスタンダードにならないように、注意深い運用ルールが必要になります。
また、規定を作成したからといって、社員の身体検査を実施したり、隠し録音を完全に防止することは事実上できませんし、録音されてしまった内容が無効になる効果があるわけでもなく、あくまで注意喚起という位置づけになります。
人手不足もあり、労働者の権利意識が高まっている状況下で、人事労務管理については、曖昧さを廃して、透明で明確な対応が必要になります。
日常的なコミュニケーションは、口頭、メール、チャットアプリなど、型にはまらない円滑さが求められます。ただし、「労働契約や労働条件に関するシビアな交渉」「注意指導など感情的な軋轢を生みやすいやりとり」については、社員側も相当に警戒をしますし、場合によっては、次のようなトラブルも起こりやすくなります。
シビアなやりとりについては、できる限り書面化して、その内容を検討する過程で、「言うべきこと」「言ってはいけないこと」をきちんと峻別することが必要になります。かつ、確認的に書面を交付・取り交わしすることで、コミュニケーションの曖昧さを減らすことができます。ぜひとも、自社の管理体制の見直しを進めていただければと思います。
弊社では、実務的な観点から、人事労務を含め内部統制の整備をご支援させていただいております。社内規程や管理体制の整備でお悩みの場合は、お気軽に下記問い合わせフォームよりお申し付けください。
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