2018/11/19
昨年から、政府が副業解禁を主導する流れの中で、厚生労働省が今年1月に「モデル就業規則」から「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という副業禁止規定を削除したことが話題になりました。
ところが、現状のところ、副業を解禁する企業は少数派であり、副業推進の流れは一向に進んでいません。多くの方が感じられているところかと思います。本稿では、そうした近年の状況やその要因を探ってみたいと思います。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査(企業調査・労働者調査)」(2018年9月11日公表)によれば、次のような結果が出ており、企業側と労働者側の考え方の相違が浮き彫りになっています。
【企業側】
「副業・兼業の許可する予定はない」が 75.8%ともっとも割合が高く、「副業・兼業を許可している」は 11.2%、「副業・兼業の許可を検討している」が 8.4%となっている。
副業・兼業を許可しない理由は、「過重労働となり、本業に支障をきたすため」が 82.7%ともっとも多く、次いで、「労働時間の管理・把握が困難になる」(45.3%)、「職場の他の従業員の業務負担が増大する懸念があるため」(35.2%)などとなっている。
【労働者側】
今後5年先を見据えて副業・兼業の実施に積極的な者(「新しくはじめたい」「機会・時間を増やしたい」と回答した者)は 37.0%と 4 割弱を占めている。
副業・兼業を望む理由は、「収入を増やしたいから」が 85.1%でもっとも多く、次いで、「自分が活躍できる場を広げたいから」(53.5%)、「様々な分野における人脈を構築したいから」(41.7%)、「組織外の知識や技術を積極的に取り込むため(オープン・イノベーションを重視)」(36.6%)などとなっており、会社という枠組みにとらわれず、収入や人材価値を高めていきたいという意向が確認されました。
今年の1月に発表された、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」によれば、労働時間の通算について、次のとおり説明されています。
労働基準法第 38 条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含みます。
(労働基準局長通達(昭和23年 5月14日基発第769号))
要は、副業によって時間外労働が発生するのであれば、企業側が「36協定の締結」とか、「割増賃金支給」の義務を負うということになります。以下詳細が記載されています。
企業経営の立場からすれば、過重労働や割増賃金の規制をことさら強く指導されている現下の世相において、このような不可解な義務を負うような「副業」を自社に解禁するモチベーションは一切働かないということは、容易に想像できるかと思います。
政府としては、副業解禁を無責任に煽りながら、旧態依然とした労働法規制は放置するという無策ぶりといえるわけですが、ここにきて部分的に動きがあるようです。
平成30年7月17日に、第1回「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」が開催され、副業・兼業の場合の実効性のある労働時間管理の在り方について、労働者の健康確保等に留意しつつ検討が行われるとのことですが、結論が出るのはまだ先のようです。
労働時間法制は、極めて政治的なテーマであることから、厚生労働省を取り巻く現下の政治状況では、大きな規制緩和は期待できないと思われます。
当面、企業経営の観点からは副業解禁はデメリットしか見当たらないということになりそうです。
本邦の国民総生産を考えると、労働者が持てる能力や才能を業務外で活かしてビジネスを生み出していくことは望ましいことと考えられますが、旧態依然とした行政規制がこれを阻んでいるというよくある話になります。
労働者ではないという立場で個人ビジネスをやる分には労働時間の通算の問題は起きにくいため、一部の先進企業では、個人ビジネスを解禁して、スキルアップや人脈開拓などを奨励する動きも想定されます。
ただ、こうした人事施策は、「自社の職務専念義務」「情報やノウハウの流出」「取引先や顧客の流出」などのリスクがありますので、労働者側のモラルやリテラシーが相当に高くないと難しい取組みといえそうです。企業としての成熟度や確固たる人事理念をもって検討すべきかと思います。
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