2022/01/05
本稿では、固定残業代(俗称で「みなし残業代」と呼ばれることもあるのですが、「みなす」という表現は法律上のニュアンスとして紛らわしい用語であるため、「固定残業代」の表現で統一します。)の適正な運用について解説いたします。
固定残業代は、労働法令に根拠を有しない制度であり、裁判例の積み重ねで、労使合意を条件として認められている制度です。要は、「労使合意」がポイントになりますので、とてもまともな合意とは言えないような杜撰な設計から、きちんと合意された設計まで、まさにピンキリの世界です。
人によっては「固定残業代」と聞くだけでネガティブな印象(ブラック、怪しい)を持つ人もいますし、何ら紛争になることもなく円満に運用している企業も多数あります。
個々の人事担当者が判例分析をして、「訴訟で否認されない制度設計」を考案することは困難と考えますので、できるだけ分かりやすく、判断基準にしやすい、行政文書を2つほど紹介させていただきたいと思います。
【1】
基監発 0731 第 1 号平成 29 年 7 月 31 日
時間外労働等に対する割増賃金の適切な支払いのための留意事項について(要旨)
平成29年7月31日付 基発0731第27号「時間外労働等に対する割増賃金の解釈について」が発出され、平成29年7月7日付けの最高裁判所第二小法廷判決を踏まえて、名称によらず、一定時間分までの時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金として定額で支払われる賃金についての解釈が示された。
(中略)
1 (4)最高裁は、割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含める方法で支払うことについて、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であるとした累次の判例(最高裁平成6年6月13日第二小法廷判決、最高裁平成24年3月8日第一小法廷判決及び最高裁平成29年2月28日第三小法廷判決)を引用し、本件については、上告人に支払われた年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできず、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできないことから、被上告人の上告人に対する年俸の支払により、上告人の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできないと判示し、原審に差し戻した。
2 労働基準法第37条が時間外労働等について割増賃金を支払うことを使用者に義務づけていることには、時間外労働を抑制し、労働時間に関する同法の規定を遵守させる目的があることから、時間外労働等に対する割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含めて支払っている場合には、上記1を踏まえ、次のことに留意する必要があること。
(1)基本賃金等の金額が労働者に明示されていることを前提に、例えば、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金に当たる部分について、相当する時間外労働等の時間数又は金額を書面等で明示するなどして、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを明確に区別できるようにしているか確認すること。
(2)割増賃金に当たる部分の金額が、実際の時間外労働等の時間に応じた割増賃金の額を下回る場合には、その差額を追加して所定の賃金支払日に支払わなければならない。そのため、使用者が「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日付け基発 0120第3号)を遵守し、労働時間を適正に把握しているか確認すること。
【2】
2018(平成30)年1月1日 職業安定法改正
「労働者を募集する企業の皆様へ ~労働者の募集や求人申込みの制度が変わります~」
(抜粋)
時間外労働の有無に関わらず一定の手当を支給する制度(いわゆる「固定残業代」)を採用 する場合は、以下のような記載が必要です。
- ① 基本給 ××円(②の手当を除く額)
- ② □□手当(時間外労働の有無に関わらず○時間分の時間外手当として△△円を支給)
- ③ ○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給
求人広告媒体がNGを出してくるケースは、後者の職業安定法に絡む部分が多いと考えられます。代表的なNG事例は、固定時間数や固定金額を明示せずに単に「基本給に残業代を含む」と記載するような方式や、計算ロジックが分かりにくいような大雑把な設定(例:基本給20万円、固定残業代10万円といったような記載)が多いように思われます。前者であれば、残業が無制限に基本給に吸収されるような違法設計を想像させてしまいますし、後者であれば、固定残業時間が何時間なのか、全く見えない不気味さを感じさせてしまいます。
労働条件の重要な部分を曖昧にするということは、企業側が、その労働条件に自信を持っていない、公にしくにくいことをやっていると表明しているようなものです。人材難の時代にあって、大きな声では言えないような労働条件を提示して、優秀な人材を採用しようとすること自体、かなり無理があることです。また、昔のように、採用面接では労働条件を曖昧にしておいて、入社後に後出しで開示するといった手法も、令和の時代に通用する手法とも思えません。
余談ですが、「労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより離職した者」を発生させてしまいますと、ハローワークの離職判定としては、解雇に準ずるものとして取り扱われる可能性が高く、雇用関係の助成金を検討中の企業にとっては不利な材料になることは知っておくべきでしょう。
ここで論じているのは、給与水準の話ではなく、給与の明確性の話であることにご注意ください。給与水準については、もちろん業界格差、企業規模格差があるところは周知のとおりですが、給与の明確性については、業界格差、企業規模格差が存在する必要はありません。労働条件をきちんと明示して、納得の上でご入社いただくことが、ひいては安定雇用につながるものと考えています。
弊社では、実務的な観点から、労務管理や人材管理の整備をご支援させていただいております。人事労務管理でお悩みの場合は、お気軽に下記問い合わせフォームよりお申し付けください。
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