2016/08/30
Q 私の会社にはそろそろ定年になる方がいます。定年後に嘱託として再雇用するときには、正社員のときよりも給与を下げるものだという印象がありますが、本当に下げても大丈夫ですか?
A 給与を下げることがよいかどうかは、再雇用後の労働条件と合わせて考えましょう。
2016年5月、東京地裁において、トラック運転手が、定年前の正社員であったときと、定年再雇用後の有期契約の嘱託社員になってからと、職務の内容が変わらないのに、給与が2-3割も下がったことは不合理であり、また財務状況からも賃金を引き下げる必要性はなく、労働契約法に違反するという判決がなされました。
さらに、会社は、原告に給与の差額を払うことを命じられました。
この判決は控訴されているため、さらに上級の裁判でどのような判断がなされるかはまだ分かりませんが、いま出ている判決で考え方を整理しておきます。
労働契約法第20条では、次のように定められています。
「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
この条文から、不合理と認められるか考慮するための要素は以下のものとなります。
1.業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(=職務の内容)
2.当該職務の内容及び配置の変更の範囲
3.その他の事情
2016年5月に判決が出た裁判では、
1.正社員のときと業務内容は変わらないこと
2.正社員就業規則に定められているのと同様に、業務の都合により勤務場所及び担当業務の変更ありうること
3.その他、特段の事情もないこと
から、嘱託社員と正社員の間には、業務にもその責任範囲にも違いがないとされました。
かつては60歳になると老齢厚生年金を受給することができました。
また、高い給与をもらうと厚生年金の一部や全部に支給停止がかかることがあるため、高い給与をもらうよりも、給与を下げて、社会保険料や税金を下げ、支給停止もかからないようにする方が、結果として手取りが多くなる場合もあります。
こういった理由から、定年退職後、嘱託社員になってからの給与は、正社員のときよりも下げている会社が多いことと思います。
しかし、本来、給与は仕事の内容で決めるべきもの。
正社員から嘱託社員になるときに給与を変えるのであれば、業務を変える、責任を減らす、日数や時間を減らすなど、職務の内容も変えるようにしましょう。
この地裁判決は、これからの正社員と非正規社員の給与格差に一石を投じる可能性があります。
定年の前後で給与の引き下げを行う場合のみならず、契約社員やパートタイム労働者についても、正社員との労働条件の差が不合理なものであるとされないよう、どのような働き方をしてもらうことができるか検討し、就業規則や労働契約書を整備していきましょう。
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