2017/02/01
Q 当社の社員は、間もなく10人を超えそうです。ただ、時期によって減ったり増えたりするので、当面様子を見ようと思っております。まだ就業規則の作成を急ぐ必要はないと思うのですが、どうでしょうか?
A おっしゃるとおり、就業規則の作成義務は、労働者10人以上です。
【就業規則第89条】
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
(以下略)
就業規則の作成は、経営的には面倒と思われているせいか、できるだけ作らないように、お考えの会社が多いようです。
就業規則の作成は会社の義務であると同時に、重要な権利であるとも言えるわけですが、今回は、この「会社の権利」という観点から考えてみたいと思います。
(1)就業規則の原則1 ~不利益変更(不利益な改定や規制追加)が難しい~
【労働契約法第九条】
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
(以下略)
この条文は「不利益変更」について定めた条文です。就業規則は一度作成してしまうと、不利益変更は、労働者の同意がないとできません。
※ただし書きで例外もあるのですが、「労働者の不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、交渉の状況等の事情に照らして合理的なものであるとき」という実務的には判断しにくい要件になっています。
つまり社員が100人いれば、100人の同意を取らないといけないということです。
社員が1人であれば、1人の同意で済みます。
社員が0人であれば、同意不要で自由に制定できます。
つまり、就業規則の作成タイミングは、会社設立時(社員0名)の時がベストということです。
(2)これまで就業規則が存在しなければ、「不利益変更」は起こらないか?
この場合も、不利益変更の問題が起こる可能性があります。
例えば、これまで労働契約があいまいな状態になっていた場合、新たに就業規則を設けると、社員にとって今までに存在しなかった規制が設けられることになります。
場合によっては事実上の不利益改定の問題が起こりますし、そこまで大げさにならない場合でも、既存の社員の心理的反発が起こります。
つまり労務管理は、後出しじゃんけんは不利(特に会社側に)という特徴があります。労働契約書に書いていないこと、就業規則にないことを、後出しで社員に納得させるのは、法律的にも心理的にも難しいということです。
ワンマン企業などでは、そうしたものを無言のプレッシャーで押さえ込むというマネジメントを採られている会社もあるのですが、パワハラやブラック企業問題に対する風当たりが強まる中、そのような、同調圧力を用いた押さえ込みは今後ますます難しくなっていくと思われます。
(3)就業規則の原則2 就業規則に書いていないことは、会社は主張できない
悪いことを行うと罰せられるというのは世間の常識です。その延長で、会社で不正行為を行った社員を懲戒解雇にするのは、当然のように考えられていますが、これも就業規則に「懲戒」の条文がなければ、会社は懲戒処分を実施することができません。
また、遅刻した分の給与を時給計算で欠勤控除するのも常識のように見えますが、原則として、欠勤控除を定めた条文が必要です。
何かトラブルが発生したときに、会社が言い分を主張するためには、就業規則という裏づけが必要なのです。
(逆に社員は、労働基準法や判例法理に保護されているので、就業規則に書いていないことを主張する余地があります。)
(4)つまり雇用とは契約関係である(しかも社員に有利な契約)
契約行為ですから、契約内容に変更が生ずるような会社の指示命令などは、契約上の根拠がなければ許されません。
「人事異動」「出向辞令」「降格降給」「書類の提出命令」「休職命令」「懲戒」「解雇」こういったものは、マネジメント上必要なものですが、これを定めた条文が必要なのです。
就業規則として明文化せず、「世間常識」「労使慣行」「暗黙のルール」として運営していくこともできないわけではありませんが、これは契約書無しの信用ベースで取引を行うような状態です。トラブルが発生したときには、会社の主張が通らなくなってしまいます。
就業規則を定めず経営を行うということは、会社のマネジメント権を放棄しているようなものなのです。
(5)就業規則は会社の裁量で作成できる
労働基準法に違反しない限り、会社は自由に就業規則を作成できます。ただし、不利益変更になる場合は、上記のような制約が発生します。
つまり、会社のマネジメント権、コントール権を確保するためには、次のような方策が望ましいと言えます。
◆就業規則は、会社設立時(社員0人のとき)に社長の裁量で作成する。
◆社員が入社したら、意見聴取手続を経て、労働基準監督署に届出をしておき、会社の正規のものとして、今後の社員にも、堂々と見せられる状態にしておく。
◆就業規則の内容は、専門家の助言を得ながら、今後、会社で起こりうる労務トラブルを想定し、会社のマネジメント権(裁量権)を最大限保障できるような内容とする。
◆会社の発展に合わせて、社員と相談しながら、段階的に規則を緩和していく。(つまり社員に有利な改定をする)
◆社員の成長に合わせ、信頼関係をベースとしたより自由な働き方を取り入れ、社員の自主性と裁量を尊重した規則を取り入れていく。
◆契約社員、嘱託社員、短時間社員など様々な働き方に対応するための、別規程を増やしていく。
このように、会社の発展段階に合わせて、就業規則もあるべき姿が異なります。特に、初期の段階では、事業も不安定で、社員のレベルもまちまちでしょうから、様々な労務トラブルを想定した保守的な内容とすることが望ましいでしょう。
なお、就業規則は助成金の申請にも必要になる場合が多いです。そうした観点も織り込んでいただけると、事業運営に役立つ就業規則になるでしょう。
弊社では、多くの他社事例(労務トラブル)を取り入れ、シンプルではありますが、しっかり実務運用ができる就業規則のご支援をさせていただいております。
一言に就業規則といっても、会社のステージ応じて内容が異なります。例えば労働時間管理制度にしても、複数種類ありますので、そうした制度設計を選択しながらじっくりと作りあげることもできますし、シンプルに初期の会社を守るための「最小パッケージ」もご用意することが可能です。
電通事件を機に、労働問題が大きく取り上げられている現在だからこそ、労務管理の根幹となる就業規則を見直してみてはいかがでしょうか。
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