GERBERA PARTNERSブログ

労務管理|【偽装請負の境界線】労働契約を請負契約に切り替えることは可能か?

2018/02/28

Q、社内の作業の一部を、請負契約(業務委託契約)に切り替えていきたいと思います。偽装請負の問題もありますので、労働者と請負は明確に区別していきたいと思います。実務的な注意点を教えてください。

 

A、労働契約と同視されないように、発注者と請負人との間で、業務の依頼方法、成果の検収方法、契約書、報酬形態などを明確に定める必要があります。また、原則として報酬は、一定の成果に対して支払われることが一般的であり、報酬の払い方についても、労働者給与とは別の管理を行なわなければなりません。

   

解説(公開日:  最終更新日:

本稿において、偽装請負とは、契約が請負・業務委託契約であるにも関わらず、実態が労働契約類似になっており、結果として労働法規制の脱法行為になっている形態を指すものとして使用します。

(偽装請負という用語は、派遣会社等がこれを行う場合は、本来は労働者派遣法の枠内で管理すべきものを、表面上は請負形態を偽装し、人材を客先に送り込み作業を行なわせること(労働者供給事業、人貸しビジネス)を指しますが、本稿では派遣ビジネスの話は触れませんのでご了承ください。)

   

【1】労働契約と請負・業務委託契約の主な相違点

 
(1) 根拠法令、法規制

労働契約は、民法623条(雇用契約)、労働契約法6条(労働契約の成立)に根拠を有します。その他、労働基準法等の労働諸法令による様々な規制が存在します。 他方、請負・業務委託は、民法632条(請負)、民法643条(委任)、民法656条(準委任)に根拠を有し、民法上の自由契約となります。

 
(2) 作成すべき書類、法定帳簿

労働契約においては、法定帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)や労働条件通知書などが必要です。請負・業務委託の場合は、請負契約書や業務委託契約書が作成されるのみであることが多いです。

 
(3) 時間管理

労働契約においては、出退勤管理(労働時間管理)が必須です。36協定に関する時間外労働規制や割増賃金規制があります。請負・業務委託の場合は、原則として時間拘束をかけることはできません。

 
(4) 指揮命令

労働契約においては、個々の業務において、会社に指揮命令権があります。そのための、人事権や懲戒権があり、労働者に対する拘束となります。 請負・業務委託の場合は、原則として、指揮命令はできません。

 
(5) 労災対応や社会保険

労働契約においては、労災は強制加入で、業務執行中の事故は労災保険で補償されます。健康保険や厚生年金も要件を満たした場合は強制加入で、保険料は会社と労働者で折半納付します。請負・業務委託の場合は、そのようなことはなく、請負人は自己の責任で、国民健康医保険、国民年金等の制度に加入し、不足部分は各種民間保険を活用する等で対応します。

 
(6) 所得税

労働契約においては、給与から源泉所得税が控除され、年末調整が実施されます。請負・業務委託の場合は、要件に該当した場合は、支払者が源泉徴収する場合がありますが、原則としては、請負人が事業主として申告納税を行なうことになります。

     

【2】 労働契約類似とみなされないために注意すべきこと

 

参考となるケースとして、「NHK地域スタッフ」(NHK本体との不透明な契約形態や視聴者への不適切説明等でトラブルが多い、通称「NHK集金人」のことを指します)については、過去にいくつもの判例があり、労働者性が裁判上で判断されてきました。

 

そうした中で示された判断基準から、実務上のポイントと考えられる点を簡潔にまとめてみたいと思います。(下記に適合しないからといって直ちに労働者類似とみなされるわけではありません。)

     

【労働契約類似とみなされないために注意すべきこと】

 
(1) 発注者からの業務の依頼を拒否する自由を有すること
 
(2) 業務の実施方法につき依頼主からの指揮を受けないこと
 
(3) 依頼主から、勤務場所や勤務時間に関する拘束を受けないこと
 
(4) 業務に従事する者として特定の人物を指定したりしないこと

(代替性が確保されていること)

 
(5) 報酬は仕事の成果に関する出来高払いがとなっていること

従事時間比例で計算されたり、時間控除や時間外割増的な運用が行なわれていると、時間給的な性質を帯びているということで、労働契約に近づいてしまいます。

 
(6) 兼業を禁止するような身分拘束を受けないこと
 
(7) 個人事業主としての体裁を有していること

(必要な費用については、契約上の特約がない限り、原則として請負人負担である等)

 
(8) 給与計算ソフトで報酬計算が行なわれていたり、所得税や社会保険料の計算が行なわれていないこと

当然のことでありますが、「自社の労働者の給与」と「外部の請負人の報酬」は全く別の管理をおこなわなければなりません。

   

請負契約への切り替えを進める場合には、まずは一案件として業務の切り出しができるかをご検討いただき、自社の指揮命令を外して、業務を外注化できるかの判断していただくことが必要です。その際に、細かく指揮命令が発生する業務や社内属人的な業務は業務請負にマッチしないのは、上記のとおりです。また、発注者が受託者を微細に管理することはできませんので、受託者側が、単なるワーカーであってはならず、ビジネスモラルやプロ意識を有していることがポイントになろうかと思います。

 

報酬を払っている依頼主という立場で、指揮命令的な発想から抜け出せない企業においては、指揮命令や拘束はしたいが、割増賃金や社会保険料を払いたくないといったブラック企業的な感覚に陥りやすくなります。そうなりますと、単なる脱法行為がはびこる空気ができあがり、人材の定着は臨むべくもなく、短期的な使い捨ての風土が定着することになってしまいます。

 

現在、多くの企業で働き方改革ということで、時短の取組みがなされておりますが、まさにこのような業務の見直しが求められているところです。「標準化されていない業務」「矛盾と忖度に満ちた現場のやり繰り」「報連相という名の細かな指揮命令が常時発生する業務」「ノウハウの共有がされず属人化した作業」などは、すべからく長時間労働の押し上げ要因となっております。この部分を整理し、業務を標準化することではじめて、代替性の確保や外注化の推進が進むことになります。

 

かつてのような、安価な労働力の逐次投入による人海戦術で利益を生み出すようなビジネスは、人手不足の進行により安定感がなく、持続可能性のないものとなってきました。ぜひともこの機会により、自社の業務の組み立てや労働力の投入方法を見直しする好機としていただければと思います。

 

弊社では、実務的な観点から、人事労務を含め内部統制の整備をご支援させていただいております。社内規程や管理体制の整備でお悩みの場合は、お気軽に下記問い合わせフォームよりお申し付けください。

 

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