2017/03/01
Q 電通などの大手企業に労働基準監督署の調査が入り、当社の労務管理についても不安を感じております。特に、労働時間の管理は曖昧になりやすく、どこまでやれば適正な管理になるのか見えにくいのですが、何か基準はあるのでしょうか。
A 厚生労働省から、平成29年1月20日付けで「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が発表されました。
同様の通達は、通称46通達(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について-平成13年4月6日基発339号)として知られております。内容も大筋は変更はありませんが、今回の新ガイドラインでは、近年の労働基準法違反事件を反映して、より具体化された部分があります。
今回のガイドラインで追加された部分は、実務的にも労働基準監督署の調査では特に重点的にチェックされやすい点です。こうした調査官の追求に対して、会社として曖昧な回答しかできない態勢ですと、疑義有りとされ、指導票や是正勧告書が交付されやすくなってしまいます。改めてチェックしていきましょう。
ガイドライン
「4 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」より
(3)-ウ(抜粋)
自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。(下線は筆者による。以下同様。)
下線部は、現在では調査の常套手段になっています。業務で使用しているパソコンや業務管理システム(サイボウズ等)ではログイン、ログアウトの時刻が記録されるわけですが(以下、「ログ」と呼びます)、このログとタイムカードのズレが、サービス残業として推定されることになります。数分程度の多少のズレはやむを得ないとしても、恒常的に30分以上のズレが出ている場合には、サービス残業の疑義有りとして、指導が行われるケースが多くなっています。社内調査とその報告、場合によっては未払残業の精算まで必要になるケースが多くなっています。
そもそも論として、タイムカード打刻後に、ログが残るような作業をさせないという予防策を徹底する必要があります。(ログが残らないサービス残業も、当然不可です。)
打刻後は速やかに帰社させ、人間関係の充実や自己研鑽などに時間を使えるように促しをするのが、求められている時代と言えそうです。
(3)-エ(抜粋)
自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。
その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。
この点は、新たにガイドラインに追加された部分ですので、同様の摘発事例が多いと推測されます。例えば、業務終了後に休憩スペースで従業員同士のコミュニケーションの時間があったり、自主的な勉強会や集まりが行われるケースがあります。
このような居残り時間は、会社の労務管理リスクを高めることになるので、原則としては望ましくないと考えられますが、やむを得ない場合は、社内の施設使用許可書を提出させる等の、証拠化をする必要があります。
会社としては良かれと思って黙認していたことであっても、労働時間の適正把握義務が会社に課されている以上、グレー時間について会社が反証できないものは、クロ(労働時間)と判断される事例が多くなっております。少々釈然としない理屈に感じる部分もあるのですが、このようなガイドラインでわざわざ謳われているということは、会社の義務を重く見るという行政サイドの姿勢と受取り、粛々と予防措置を講ずべきかと思います。
(3)-オ(抜粋)
自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。(a)
また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに(b)、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。(c)
下線部(a)~(c)については、違反事案でよく見られる手法ということで、労働基準監督署にマークされている点と言えます。以前より、調査が行われてきた部分ではありますが、今回のガイドラインで明確化されたことにより、今後さらに重点的に調査されることが予想されます。
(a)は暗黙の圧力型とも言える形で、残業許可の不承認や同調圧力によって上限管理する手法といえます。
(b)は名ばかり固定残業型とも言える形です。固定残業代の運用について、固定分を超過した残業があった場合は、差額残業代として支給することが、適正な運用のために不可欠ですが、こうしたものが発生しないように、暗黙のルールが存在するようなケースです。違法な固定残業制度として訴訟に発展した場合は、制度自体が否認されるリスクもあり、経営上極めてリスクの高い状況と言えます。(訴訟とは大げさに思われるかもしれませんが、専門の法律事務所がネットや電話で簡単に依頼を受けてサポートする時代ですので甘く見ることはできません。)
(c)は36協定遵守帳尻合わせ型とも言える形です。近年、36協定違反に対する締め付けが厳しくなり、企業コンプライアンス上、遵守が必須になっているため、記録上の帳尻合わせを行うケースです。本社側が一方的に現場サイドに遵守を命じ、それを受けた現場側が帳尻を合わせ、本社が黙認するという状況が一般的です。
これまでは、暗黙の了解で行われ表面化しにくかった、これらの問題についても、同様の摘発事例が多くなっている現状では、通用しない手法になってきているかと思われます。
労働時間の適正化については、これをやれば大丈夫というような、単純な解はなく、社内規程や運用の整備と合わせて、何より経営トップの決意や業務自体の生産性向上への取り組みが不可欠です。これは電通や他の大手企業の状況を見ても明らかなことです。
低生産性の長時間労働を放置しながら、表面上の帳尻合わせをする手法や、暗黙の了解で管理する手法は、社員数が増えるほど、通用しにくくなっていきます。企業規模が大きくなるにつれて、労働時間管理を安定させませんと、事業の継続的な運営に支障が出ることも懸念されます。
電通事件を機に、労働時間の問題が政治問題化し、大きく取り上げられている現在だからこそ、社内の議論も共有しやすい状況かと思います。ぜひ、根幹となる労務管理を見直してみていただきたいと思います。
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