2015/06/09
Q 当社では海外に子会社がありますので、現地法人の管理職として社員を海外赴任させています。素朴な疑問なのですが、海外赴任者に日本の労働基準法は適用されるのでしょうか?
A 海外赴任者にどの国の法律が適用されるかという問題があります。国際法という専門分野になってしまいますので、突き詰めていくと難しい問題になってしまいます。
今回は、海外赴任者に関して、実務的な観点から分かりやすく整理してみたいと思います。
まずは、海外に行く場合であっても、「短期の海外出張」の場合は、一時的なものであり、あくまでも日本法人の社員ですので、日本の労働基準法が適用されます。
次に、「長期(一般的には1年以上の予定)で海外赴任」の場合ですが、この場合は海外子会社(外国法人)の指揮命令を受けて働くことになりますので、原則として日本の法律ではなく、現地の労働法が適用されることになります。
したがって、日本の労働基準法や労働安全衛生法による規制や罰則は、海外赴任者には適用されません。
また、労災保険も原則として、海外赴任者には適用されませんので、保険適用を希望する場合は、別途「海外派遣者の特別加入」の手続きをしなくてはなりません。
ただし、ここで注意しなくてはならない点は「労働契約」です。海外赴任者は、日本法人との労働契約を維持しながら、海外子会社に出向になるケースが多いということです。海外赴任者には、労働基準法などの行政法規は適用されませんが、民法や労働契約法などの契約法規は適用される可能性があります。
「法の適用に関する通則法」によれば、次のように解釈されています。
(1)海外子会社に出向する際に、出向契約書や覚書を締結して「労働契約における準拠法を日本法とする」と合意すれば、日本法(民法や労働契約法など)が適用されます。
(2)当事者が準拠法の選択をしない場合は、「労務提供すべき地の法」が「労働契約に最も密接な関係がある地の法」と推定されますので、海外子会社との関係では現地の契約法が適用されます。ただし、この場合であっても、出向元の日本法人との雇用関係については、日本法が適用されます。
実務上、海外赴任者については、海外赴任規程を適用すると定める場合が多いので、具体的な労働契約の内容は、日本本社で作成した海外赴任規程に従って、権利義務が判断されることになります。その上で、行政的な規制については、現地の労働法が適用されるという関係になります。
例えば、海外赴任規定に、「国内と同様に残業代を支給する」という条文がある場合で、残業代の未払いがあったとしても、日本の労働基準法による罰則は適用されませんが、契約上の残業代請求権は発生します。(現地労働法の罰則は適用される可能性はあります。)
また海外赴任規程に、「年次有休休暇については就業規則を準用する」というような条文になっている場合は、日本と同じ日数分の権利が発生することになります。
つまり、海外の労務管理については、「行政的な規制の問題」と「労働契約上の権利義務の問題」を分けて整理しなくてはならないということになります。
こうした点を考えても、海外という特別な状況を想定して「海外赴任規定」を作成しておくことの大切さがご理解いただけると思います。社内の体制整備が追いつかず、海外出張の延長で、取り決めがあいまいなまま海外赴任させてケースもありますが、日本本社が思わぬ法的リスクを負うことになりかねませんので、早期に対策していただきたいと思います。
特に「給与や休暇などの待遇」「税金の負担」「災害補償」「健康管理」「安全配慮義務や使用者責任」に関する部分は、規程で明確化しておくことが、海外ビジネスのリスク対策として不可欠でしょう。
弊社では専門のコンサルタントがこのような問題を一つ一つヒアリングさせていただき、国際労務・国際税務の観点から、海外進出の支援をさせていただいておりますので、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。
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