Q. 当社は、IT事業を行っており、常用の正社員を派遣することがあるため、5年前に特定労働者派遣事業者の申請をしました。来年平成30年の9月で特定派遣が廃止されてしまうため、新しい制度に切り替えるかどうかを悩んでいます。会社資産の条件などもありますが、まだ結論を先延ばしにしていてもいいのでしょうか?
A. 労働者派遣の新しい制度で許可を受けるためには、条件を整えていく必要があります。その条件のなかでも、会社資産の条件は厳しく、直近の決算を基に判断される為、今から準備を始めないと間に合わない可能性があります。
新しい制度に切り替えるのか、それとも労働者派遣事業は廃止するのかを決めていただく時期に入っているとお考えください。
解説(公開日:
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《平成27年 労働者派遣法の改正点》
平成27年9月30日に労働者派遣法に大きな改正がありました。ご質問の派遣事業の区分の一本化を含めて、大きく5つの改正点があります。
1.労働者派遣事業の許可制への一本化
届出だけで事業開始ができた、常用労働者のみを派遣する特定労働者派遣事業と許可制の、登録者などを派遣する一般労働者派遣事業の区別が廃止されて、全ての労働者派遣事業は、新たな許可基準に基づく許可制となりました。
~3年間の経過措置~
平成27年9月30日時点で、特定労働者派遣事業を営んでいる事業者は、平成30年9月29日まで、許可を得ることなく引き続き派遣事業を行うことができます。
こちらのブログもご参考下さい。
「
労務管理|労働者派遣法改正で特定労働者派遣事業はどうなりますか?」
2.労働者派遣の期間制限の見直し
これまでの、特定の業務への労働者派遣には期間制限を設けない仕組みが見なおされ、全ての業務に、共通の2つの期間制限が適用されました。
- (1) 事業所単位の期間制限…派遣先の同一の事業所に対し派遣できる期間は、原則3年が限度
- (2) 派遣労働者個人単位の期間制限…同じ派遣労働者が、同じ派遣先の一つの組織単位に派遣される期間は3年が限度
3.キャリアアップ措置
派遣元事業者は、派遣労働者のキャリアアップを図るために、段階的かつ体系的な教育訓練と希望者に対するキャリア・コンサルティングを実施することが義務付けられました。
4.均等待遇の推進
派遣労働者と、派遣先で同種の業務に従事する労働者の待遇の均衡を図るため、派遣元事業者と派遣先に責務が課されました。
5.労働契約申込みみなし制度
派遣先が違法派遣を受け入れた場合、その時点で、派遣先がその派遣労働者に対して、派遣元での労働条件と同じ労働条件の、労働契約の申し込みをしたものとみなされます。
こちらのブログもご参考下さい。
「
労務管理|改正労働派遣法~労働契約申込みみなし制度とは?」
《特定派遣からの切替えの条件》
特定労働者派遣事業から、新制度の労働者派遣事業への切替えは、特別な簡易手続きがあるわけではなく、改めて労働者派遣事業の許可申請をしなければなりません。
許可には条件があり、法改正前の許可基準と比べて、事業者が事業体制として整えなければならないものが増え、また厳しくなっています。今回はこの基準の中でも、特に予めの準備が必要な資産要件について説明します。
●許可申請における資産要件
許可申請時の直近の決算期における貸借対照表などにより、要件を満たしていることが必要です。決算期末時の資産がターゲットになるため、その時点で基準に該当していなければなりません。
このため、もし経過措置の期限である、平成30年9月29日に許可申請をする場合には、平成29年9月30日から平成30年8月31日の間の事業年度に応じた決算期が対象となりますので、貴社での時期をご確認下さい。
具体的な資産要件は次のとおりです。
- (1) 基準資産額が1事業所当たり2000万円以上であること
※ 基準資産額とは、貸借対照表の資産総額(繰延資産・営業権は除きます)から負債総額を引いたもの。
- (2) 事業資金が1事業所あたり、事業者名義の現金・預金が1500万円以上あること。
- (3) 基準資産額が、負債総額の7分の1以上あること。
この要件に対して、事業者が中小事業主であることと、常時雇用している派遣労働者の人数によって緩和措置が設けられています。
A 常時10人以下 期限 当分のあいだ
- (1) 基準資産額が1事業所当たり1000万円以上であること
- (2) 事業資金が1事業所あたり、事業者名義の現金・預金が800万円以上あること。
- (3) 基準資産額が、負債総額の7分の1以上あること。
B 常時5人以下 期限 平成30年9月29日まで
- (1) 基準資産額が1事業所当たり500万円以上であること
- (2) 事業資金が1事業所あたり、事業者名義の現金・預金が400万円以上あること。
- (3) 基準資産額が、負債総額の7分の1以上あること。
なお、直近の事業年度の決算において要件を満たせなかった場合、事業年度途中に中間決算を行なって、公認会計士による監査証明を付けることで直近の決算に代えることができます。
《切替えへのメリット・デメリット》
現在の労働者派遣事業に切替えるにあたって、メリットとデメリットについても見ていきましょう。
●労働者派遣業の許可を受けるメリット
最大のメリットは、当然ではありますが労働者派遣業を継続できることです。労働者派遣業を継続できるということは次のことにつながります。
- (1) 現在派遣契約を結んでいる派遣先への継続した労働者派遣が行える
- (2) 新規の派遣先との契約を増やすことができる。
法改正時の労働者派遣事業者のうち、約7割が特定労働者派遣事業者でした。このうち、許可制に移行できない事業者が、労働者派遣事業から撤退することになると、新規契約を獲得できる可能性は高くなると考えられます。
●労働者派遣業の許可を受けるデメリット
許可基準が厳しくなっていることから、次のような負担やリスクがデメリットとしてあげられます。
- (1) 運営費用の増加
- (2) 派遣先での労働者直接雇用促進の対応
- (3) 報告や届出の義務を怠った場合などで許可取消や企業名の公表のリスク
運営費用の増加には、許可要件の一つである事業所面積20㎡を満たすための事業所の移転、賃料、また、キャリアアップ措置や管理体制に係る費用などが想定されます。
これらの内容と、貴社の今後の事業展開のなかでの労働者派遣事業の重要性を照らして、検討を進めていかれてはいかがでしょうか。
弊社では、特定労働者派遣事業から現行法の労働者派遣制度への切替え、新たな労働者派遣事業の設立の申請についてはもちろんのこと、労働者派遣事業の運営をトータルでサポートさせていただきます。どうぞお気軽にご相談ください。
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