2019/12/06
日本では、試用期間中の労働条件については、労働基準法や最低賃金法に違反しなければ、就業規則や労働契約において自由に決めることができます。一方、中国においては、試用期間に関して企業を規制するさまざまな法律があります。今回の記事では、中国での試用期間に関する法律の内容と対策についてご紹介します。
試用期間に関して、特に留意しなければならないものとして、試用期間の長さ、給与額、労働契約の締結、社会保険の納付、労働者の解雇の5つがあります。
(1)試用期間の長さ ~試用期間の長さは労働契約期間によって決まる~
中国労働契約法第19条により、契約期間ごとの試用期間は次のとおりと定められています。
労働契約期間 | 試用期間の上限 |
一定の業務を完成するため締結した労働契約 | 試用期間は設定できない |
3か月未満 | 試用期間は設定できない |
3か月以上1年未満 | 1か月 |
1年以上3年未満 | 2か月 |
3年以上の固定期間 | 6か月 |
無固定期間 | 6か月 |
なお、同一雇用企業と同一労働者の間で設けることができる試用期間は1度のみです。
(2)試用期間の給与額 ~試用期間の給与の下限は決まっている~
試用期間中の従業員の給与は、その企業の同じ職務の最低給与水準の80%、労働契約で約束した給与の80%、その企業の所在地の最低給与基準の3つの額を下回ることはできません。労働者と企業の両者が合意して決めた額であったとしても、基準を下回れば法律違反となります。
(3)試用期間の労働契約の締結 ~試用期間だけの契約は締結できない~
試用期間は労働契約期間の中に含まれ、その前提条件は労働契約を締結することであると中国労働契約法第19条に規定されています。労働者と試用契約のみの労働契約を結ぶことはできません。
(4)試用期間の社会保険の納付 ~試用期間であっても社会保険料の納付は必要~
企業と労働者は、法律に基づいて社会保険を納付しなければなりません。
試用期間は労働契約期間の一部であり、試用期間の労働者にも通常の労働者としての権利があります。企業が労働者のために社会保険を支払うのは法律上の義務であり、企業や労働者本人の意思で決めることはできません。
(5)試用期間の労働者の解雇 ~試用期間中の解雇にも理由が必要~
試用期間中、企業と労働者は規定に従い、労働契約を解除することができます。
労働者は、試用期間中であれば、企業に3日前までに通知し、労働契約を解除することができます。また、企業も、労働者が採用条件に適していないときには、労働契約を解除することができます。しかし、企業が試用期間中に労働契約を解除するしようとするときには、労働者に理由を説明し、採用条件に適していないことの証明をしなければなりません。
試用期間中に雇用企業が労働契約を解除できる条件は、法律によって具体的に限定されています。たとえば、労働者が試用期間の採用条件に適していないことが証明された場合、会社の規則制度に厳重に違反した場合、重大な職務上の過失を犯し、または私利私欲を営み、企業の利益に重大な損害をもたらした場合等が、これに該当します。
また、解除の理由により、一方的に解除できる場合と、30日前までの書面通知または給与の支払いが必要な場合があります。
労働契約を解除しようとするときの理由説明について、法律上、書面で行うことは求められていませんが、トラブル防止のためには、理由説明は書面で行い、さらに書面には労働者の受け取りのサインがもらうことが望ましいと言えます。
試用期間については、通常よりも安い賃金で労働者を雇用でき、簡単に労働契約の解除ができる、という誤解をしている企業もあるようです。しかし、試用期間の安易な運用や、悪用は、結果として企業に大きなマイナスを与えかねません。
試用期間の長さや給与額は法律に基づき、正しく設定することはもちろん、試用期間を設定する場合には、労働者が採用条件に適合しているかどうかを判断・証明できるよう、評価制度を用意し、運用するようにしましょう。
本稿は、みずほ銀行が発行するメールマガジン「Mizuho China Monthly 2019年11月号」に寄稿させていただいたものを再編集したものです。「Mizuho China Monthly 2019年11月号」の記事では、企業が試用期間に関する法律に違反した場合や試用期間の労働契約の解除条件について詳細に記載しています。また、試用期間に関する紛争の現状や具体的なトラブル事例についても触れていますので、ぜひご参照ください。
『みずほ銀行 Mizuho China Monthly 2019年11月号』
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