2015/11/04
Q 10年前から中国に現地法人を置いて、輸出加工を行っています。人件費の値上がりとともに、事業縮小もやむを得ないと考えていますが、中国では退職金に相当する経済補償金の支払い義務が生じると聞いています。この経済補償金について、体系的に教えていただけませんでしょうか。
A 中国では、『労働契約法』が労働者と使用者との関係を調整し、労働紛争を解決する根拠となっています。労働契約法の基本原則の一つは、弱者の位置にある労働者の権益を積極的に保護するという点です。この観点から、労使間の労働契約が解除される際に労働者に対して支払う経済補償金の問題に関する規定が明確に定められています。
どんな場合に経済補償金を支払う義務が生じるかを列記します。主に以下の場合には、法律により、使用者は労働者に対して経済補償金を支払わなければなりません。
1.労働者が会社都合で離職する場合
一般的に、労働者のほうから労働契約を解除する場合は経済補償金の支給を受けることができませんが、使用者が違法な行為をした場合には、労働者は一方的に労働契約を解除することができます。このような場合は、たとえ労働者が労働契約の解除を主張したとしても、使用者は労働者に経済補償金を支払わなければなりません。
2.使用者が契約解除を求める場合
労働契約では、使用者及び労働者は協議による合意のうえで労働契約を解除することができると定めています。さらに、使用者が労働者に労働契約の解除を提起し、かつ労働者と労働契約の解除について協議により合意した場合は経済補償金を支払うべきとあります。したがって、協議による合意のうえで労働契約を解除する際は、当事者のどちらから解約を提起したかという点が、労働者が使用者に経済補償金の支払いを請求できるか否かの分かれ目となります。
3.使用者に過失がない解約(非過失性解約)の場合
非過失性解約とは、下記のような状況をいいます。
(1)労働者が罹病又は業務によらない負傷により、医療期間満了後も元の業務に従事することができず、使用者が別途用意した業務にも従事することができない場合
(2)労働者が業務を全うできないと証明され、職業訓練又は職場調整を経てもなお業務を全うできない場合
(3)労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が生じ、その結果労働契約の履行が不可能となり、使用者と労働者が協議を経ても労働契約の内容変更について合意できなかった場合
これらの状況のいずれかがある場合、使用者は30日前までに書面により労働者本人に通知するか、又は労働者に対し1カ月の賃金を余分に支給した後、労働契約を解除することができます。
4.使用者がリストラをする場合
下記の状況のいずれかに該当し、20人以上又は20人未満だが企業従業員総数の10%以上の人員削減が必要な場合は、使用者は30日前までに労働組合又は全従業員に対して状況を説明し、労働組合又は従業員の意見を聴取後、人員削減案を労働行政部門に報告したうえで人員削減を行うことができます。
(1)企業破産法の規定によって再編を行う場合
(2)生産、経営が極めて困難になった場合
(3)企業の製品転換、重大な技術革新又は経営方式に調整があり、労働契約変更後においてなお人員削減が必要である場合
(4)その他、労働契約の締結時に依拠した客観的な経済状況に重大な変化が起こり、労働契約の履行が不可能となった場合
5.使用者が労働契約を更新しない場合
以下のような状況において労働契約の更新に同意しないことにより労働契約が終了する場合、使用者は労働者に対して経済補償金を支払わなければなりません。
(1)当事者双方が共に契約更新について同意しない場合
(2)使用者が労働契約を更新することに同意せず、労働者がそれに同意する場合
(3)使用者が労働契約で約定した条件を引き下げることを条件に更新に同意するものの、労働者がそれに同意しない場合
6.使用者の破産などの原因による解約の場合
使用者が破産を宣告されたり営業許可証を取り消された場合は、労働契約は終了し、使用者は労働者に対して経済補償金を支払わなければなりません。
7.使用者が労働契約の締結を拒絶した労働者を解雇する場合
使用者から書面による通知を受けたにもかかわらず、労働者が雇用開始日から1カ月以内に書面による労働契約の締結を拒んだ場合、使用者は書面により労働関係の終了を労働者に通知しなければなりません。この場合は労働者に経済補償金を支払う必要はありません。
雇用開始日から1カ月以上1年未満、労働者と書面による労働契約を締結していない場合には、労働者に毎月2倍の賃金を支払わなければならず、また労働者と書面による労働契約を締結しなければなりません。この場合において労働者が書面による労働契約の締結を拒んだときは、使用者は書面により労働関係の終了を労働者に通知しなければならず、経済補償金を支払わなければなりません。ただし、労働者が書面の労働契約の締結を拒み、かつ継続履行を拒む場合は、上海高級人民法院の『労働契約法適用に関する若干問題に関する意見』に基づき、「労働者側で労働契約を終了した」とみなされ経済補償金を支払う必要はありません。
8.一定の業務の完了を以って労働契約を終了する場合
一定の業務の完了をもって終了する労働契約が職務の完遂により終了する場合、使用者は労働者に経済補償金を支払わなければなりません。この場合、当事者双方が契約の更新を同意するかどうかに関係なく、経済補償金を支払わなければなりません。
以上、労働契約法に見られる経済補償金の規定を解説させていただきました。本稿は、みずほ銀行が発行するメールマガジン「Mizuho China Monthly 11月号」に寄稿させていただいております。こちらには労働契約法の条文番号も含めて記載していますので、ぜひご参照ください。
『みずほ銀行 Mizuho China Monthly 11月号』はこちら
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