2018/03/20
A、留学内容の業務性がポイントになります。留学内容と業務との関連性が強い場合は、留学費用の返還は認められません。反対に、留学内容と業務の関連性が弱く、従業員個人の利益性が強い場合は、留学費用の返還が認められるケースもあります。この場合においては、留学前に金銭消費貸借契約が必要になります。
業務と関連性が強い留学・研修は、業務として行っているので、従業員の返還義務はないと判断されると思われます。
業務と関連性が低い場合は、個人の利益として留学・研修を受けており、金銭消費貸借契約を締結することにより、その費用の貸付を会社が従業員本人に対し行ったことになります。
金銭消費者貸借契約内で、従業員が企業から貸付を受けた研修・留学費用の返還義務は、所定の期間勤務することで免除することを明示することにより、所定の期間の前に退職する場合は、留学・研修費用の返還を求めることが可能になります。
労基法においては、企業が従業員の留学・研修の費用を負担し、終了後、一定期間勤務しないと従業員に費用の返還を義務づけるという制度は、 労働基準法16条がする違約金・損害賠償の定めに当たるか否かが問題となります。
留学・研修に「業務性」が認められる場合、費用の返還を求めることは 同16条に反し許されないと解されています。
参考【労働基準法第16条(賠償予定の禁止)】
条文:使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
裁判例においても、留学・研修の業務性がポイントになっています。
留学や研修の内容等から判断して、留学・研修と当該企業における業務との関連性が強く、労働者個人の利益との関連性が弱い場合は、業務性が肯定されます。
この場合、留学費用は本来企業が負担すべきものであり、それを一定期間以内に退職しようとする従業員に(返還という形で)支払わせることは、足止めを図る違約金・賠償予定の定めに当たります。これは、労基法16条違反で許されないと判断されています( 東京地判平成10.9.25 新日本証券事件 労判746号7頁)。
その一方で、留学・研修の業務性が弱く、個人の利益性が強い場合は、留学費用は本来従業員が負担すべきものであり、それを企業が労働契約とは別個の契約(消費貸借契約)で貸し付けたものであると解釈されます。
この場合は、 労基法16条違反とはならないと判断されています( 東京地判平成9.5.26 長谷工コーポレーション事件 労判717号14頁)。研修・留学に業務性がない場合、従業員が企業から貸し付けを受けた研修・留学費用の返還義務は、所定の期間勤務することで免除されるとの考え方が背景にあります。長谷工コーポレーション事件の判例においては、学費のみの返還が認められました。
以上のように、会社負担の留学・研修後の退職抑制の一つとして、金銭消費貸借契約をご紹介させていただきました。
私どもガルベラ・パートナーズでは、海外留学・研修に対応した海外留学規程の作成支援を行っています。海外留学規程だけでなく海外赴任者に向けての海外赴任者規程のご案内もいたしております。
◆ガルベラのメールマガジンに登録しませんか◆
ガルベラ・パートナーズグループでは毎月1回、税務・労務・経営に関する法改正や役立つワンポイントアドバイスを掲載したメールマガジンを配信しております。 加えて、メルマガ会員のみガルベラ・パートナーズグループセミナーに参加可能!
10秒で登録が完了するメールマガジン 登録フォームはこちら!