2016/12/07
Q 電通事件で労働時間の過少申告がされていたと報道されておりました。当社でも、タイムカードを使用せず、業務日報で労働時間を申告する方法で管理しておりますが、このような方法は違法行為になるのでしょうか?
A 【日本経済新聞 2016年10月14日より】
電通の新入女性社員が昨年12月に過労で自殺した問題を受け、東京労働局などは14日、労働基準法に基づき東京都港区の電通本社などを立ち入り調査した。長時間労働が常態化している疑いがあるとみて、出退勤記録などから実態解明を進める。法令違反があれば是正勧告する方針。悪質な場合は刑事事件としての立件も視野に入れる。
(中略)
代理人弁護士によると、高橋さんは残業時間を労使協定で定めた月70時間以内に抑えるため、「労働時間集計表」に過少申告するよう指導されていたという。高橋さんは指導に従い昨年10月は「69.9時間」、同11月は「69.5時間」と実際より減らして記載していた。
厚労省は全社的に残業時間が超過していなかったかどうかや、過少申告の有無などを調べる。
さて、本件は大きな話題となり、議論すべき点は多数あるのですが、今回は「労働時間の自己申告制」について検討してみたいと思います。
労働時間の管理の方法として、一般的にはタイムカードが使用されるわけですが、出勤簿に各自が記入するような「自己申告方式」を取っている会社も多数存在します。
ただし、本件のようにコンプライアンス意識の低い企業においては、「労働時間集計表に過少申告するよう指導されていた」というような状況が多く見られたり、労働者による自主的な「調整」が行われたりする可能性が高いため、行政より、次のような通達が出ています。
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」(平成13年4月6日基発339号)
(前略)
(2) 始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
ア.使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。
イ.タイムカード、IC カード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
(3) 自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置
上記(2)の方法によることなく、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。
ア.自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
イ.自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
ウ.労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
要するにタイムカードを使用せずに自己申告制を採用する場合は、会社が責任を持って、適正な打刻になっているか確認をしなければならないということです。
自己申告は自己責任というように、労働者に責任転嫁している企業も多いのですが、法令上はそのような理屈は通用しないということになります。
本件のように、労働基準監督署の立入検査があった場合、パソコンのログイン時刻、業務メール発信時刻、入退館セキュリティログ等による突合確認が行われたり、場合によっては監督官による張り込みなどが実施されるケースも多く、あらゆる方法で、自己申告の信憑性が検証されます。
こうした調査の過程で、早朝サービス出勤・サービス残業・架空休憩等が発覚する事例が相次いでいます。また、本件のように過少申告するよう指導や圧力があったような悪質な実態が発覚するケースもあり、労働基準法違反事件として送検されるケースも多くなっております。
加えて、最大2年間遡及しての未払残業代の支払を求められる場合もあり、会計上の簿外債務として、経営に大きなインパクトを与えます。
自己申告制を採用する場合は、タイムカード以上に、コンプライアンス意識を求められるところであり、会社側に厳密な運用が求められるものであるというご認識をお持ちください。
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