GERBERA PARTNERSブログ

中国|中国現地法人の残業問題とその対策 その2

2015/03/18

Q 中国の残業問題について、従業員との間でトラブルになる前に法律と実務上の留意点をおさえておきたいと思います。残業問題に対する対策もふくめて、教えていただけますか?<その2>

 

A 残業が多い企業や、業界の特色や業務の内容により連続勤務が必要な企業、生産性向上のために交代制を採用している企業などは、残業問題をどのように解決しているかというと、不定時勤務時間制や総合勤務時間制の許可申請を管轄の労働行政管理部門に対して行っています。

 

 総合勤務時間制とは月、四半期、年といった特定の期間(周期)を総合して労働時間を計算する勤務時間制度で、日本の変形労働時間制に似ています。1日の労働時間(上限8時間)の超過制限および1週間(上限40時間)の超過制限の適用を受けず、企業が自主的に制定する労働時間計画書(タイムテーブル)に基づいた業務指示が可能となる制度です。

 

 ただし、総合勤務時間制を申請ができる企業は業界の範囲が決められており、交通、鉄道、郵便・物流、水運、航空、漁業などの特殊な環境下でどうしても連続勤務が必要な企業か、地質探査、建築、製塩、製糖、旅行などの季節や自然条件の制限を受ける業種の企業のみ申請することができます。

 

 この総合勤務時間制を利用した企業でも、その周期内で平均して計算した1日の労働時間と1週間の労働時間は標準労働時間を超えることはできないとされていますので、たとえば上海市では、原則として週または月を周期とする総合勤務時間制を採用しなければならず、四半期や年間を周期とするケースは例外的に認められるだけであり、日系企業での実際の運用は難しく、注意が必要です。

 

 次に、不定時勤務時間制といって、日本のフレックスタイム制とみなし労働時間制を合わせたような制度もあります。これは、出退勤の時間が確定せず、1日の勤務時間が8時間を超えても残業代が発生しないという制度です。この制度についても、採用するには管轄の政府労働行政管理部門の認定が必要となります。

 

 注意点としては、不定時勤務時間制もやはり地方ごとに解釈や申請状況が違っていることで、必ず所在地の管轄局に確認する必要があります。不定時勤務時間制は、業界による申請範囲の限定はありませんが、職種による限定があります。企業の中の中級以上の高級管理職、外勤職員、セールス職員、その他の原因により標準勤務時間での仕事が困難な職員、標準勤務時間での評価ができない職員、その他生産性の問題や仕事上の特殊な需要により定時の勤務が難しい職員、長距離物流職員、タクシーや鉄道の職員、港や倉庫の職員に限られるといった決まりがあり、申請の際には企業としてなぜ不定時勤務時間制を採用する必要があるのかを説明できる資料を用意しなくてはなりません。

 

 不定時勤務時間制の申請に必要な書類は、それぞれの地区指定の申請書、営業許可証、企業バーコードのコピー、従業員の勤務計画書及び休日計画書、従業員の名簿並びに同意書となりますが、これらは申請対象の従業員それぞれについてサインが必要で、毎年の申請が必要となります。追加の従業員がある場合は、そのたびに申請が必要となりますので、新規申請の場合は、ある程度従業員がまとまり、前月までの残業時間など申請理由となる材料をそろえてから申請されることをお勧めします。

 

 上海の場合、申請から20営業日以内に審査結果が書面で出ますが、場合によってはさらに10営業日延長される場合もあります。申請に費用はかかりませんが、実際は一般企業の申請はなかなか許可が下りにくいのが実情です。許可が下りやすい業界としてはIT業界や物流業界が挙げられます。また、管轄労働部門の認可が下りたとしても、個別の労働契約においてもきちんと記載して合意を取っておくことが大切です。

 

 これら不定時勤務時間制や総合勤務時間制を採用した場合の法定休日出勤はどう計算するかというと、実は各地方により取扱いが異なります。標準勤務時間制(定時制)であれば、法定休日に出社し残業する場合は300%を支給することになっていますが、北京においては《北京工資支付規定》第17条において、「不定時勤務時間制採用の場合は残業代として計算されない」と明記されています。しかし上海においては《上海市企業工資支付弁法》第13条において法定休日の出勤と数えると記載されており、300%の残業代の支払いが必要となります。残業代に関しては全国統一の基準がない部分も多く、必ず管轄の役所への問い合わせや確認が必要となりますのでご注意ください。

 

<< 前の記事(その1)

>> 次の記事(その3)

 

こちらの記事は、みずほ銀行のCHINA REPORTに寄稿したものです。

 

中国の労働法については、こちらのサイトにも掲載しています。