2019/07/17
A、退職する従業員と合意している場合は、公序良俗の範囲内で、秘密保持の特約が有効となります。
在籍中の従業員であれば、雇用契約に付随する義務として、業務上の秘密保持義務は発生するとされています。一方、退職した従業員についてはどうでしょうか。雇用契約が解消されており、付随義務としての秘密保持契約も存在しないため、別の特約を締結していない限り、当該従業員は秘密保持義務を負うことになりません。
そのため、一般的には退職時に秘密保持の誓約書を回収するなどして、対策を取ります。ただし、無制限に秘密保持の特約が認められるわけではなく、公序良俗の範囲内に限られます。判断が難しい部分ではありますが、秘密保持義務を負うことで、退職従業員の権利が不当に制限されないことが必要となります。秘密保持義務の対象となる「秘密情報」の範囲は、不正競争防止法上の「営業秘密」を目安として考えると解り易いかと思います(必ずしも同一とは限りません)。
秘密管理性 | 秘密として管理されており、従業員等に対して明確に示され、営業秘密としての認識が可能であること。 |
有用性 | 情報自体が客観的に事業活動に利用されていたり、利用されることによって実際に役立つものであること。 |
非公知性 | 保有者の管理下以外では一般に入手できないこと。 |
※詳しくは、経済産業省HPをご覧ください
営業秘密~営業秘密を守り活用する~(経済産業省)
顧客情報を転職先において利用し、実際に損害が生じた裁判例では、顧客情報を利用して得た利益については秘密保持義務違反として損害賠償を命じたうえで、営業ノウハウ等の部分については、秘密保持特約があっても制限は出来ないとされたものがあります。
在籍中については、雇用契約の付随義務として対応することはもちろん、就業規則の服務規律、懲戒規定等により厳しく取締まることで問題は生じないかと思います。
退職後については、先述の退職時の誓約書の提出により特約を締結することで、義務違反の抑止効果を得たり、義務違反発覚時の差止め請求や損害賠償請求の手続きへと進むことが考えられます。いずれにしても対象とされる「秘密情報」については明確な線引きが難しいところがありますので、不正競争防止法上の「営業秘密」を参考にし、日ごろから流出しては困る情報については、全従業員がわかるような管理(例:秘密書類には記号を付ける、秘密情報はアクセス権限を明確に設定する等)を行うなど、ルール化することをおすすめします。
あわせて、退職時に誓約書の提出を拒否される、連絡がつきにくく回収が困難となる場合がありますので、入社時に、退職時に関する誓約事項を盛り込んだ誓約書を回収しておくことも一案かと思います。
人材が流出するだけでも痛手である上に、秘密情報が流出となれば会社にとって大きな損失となります。万が一に備えて、対策を検討してみてはいかがでしょうか。
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