2019/12/23
A、副業・兼業をする労働者の労災給付額の算定や業務の過重性の評価にあたって、当該労働者の複数の就業先における賃金額や労働時間が合算される見通しとなりました。これにより、副業・兼業をする労働者の労災保険給付が改善されます。
副業・兼業をする労働者について、現行の労災保険給付の取扱いは以下のとおりです。
◆副業・兼業をする労働者の労災保険給付の額は、
労働災害が発生した就業先から受ける賃金のみに基づき算定される。
(例①)就業先A:賃金20万円/月、就業先B:賃金15万円/月
就業先Bで事故に遭い、就業先AB両方を休業した場合
⇒休業補償給付の額は、就業先Bからの賃金15万円/月をもとに算定される。
◆副業・兼業をする労働者のそれぞれの就業先における労働時間は合算せず、
個々の就業先ごとに業務の過重性を評価し、労災認定を判断する。
(例②)就業先A:週40時間勤務、就業先B:週25時間勤務
脳・心臓疾患を発症した場合
⇒労災認定されない。
※副業・兼業ではなく、一つの就業先で週65(=40+25)時間勤務した場合、
月100時間を超える時間外労働が認められ、労災認定される。
これにより、副業・兼業をする労働者が労災保険給付を受ける場合、給付額が当該労働者本来の稼得能力より著しく低額になり、十分な補償が受けられないことがあります。また、それぞれの就業先における負荷のみでは業務と疾病等の因果関係が認められず、労災と認定されないこともあります。
昨今、副業・兼業が推奨されるようになったことや、多様な働き方を選択する者やパート労働者として複数就業している者が増加していること等を踏まえ、副業・兼業をする労働者に対する労災保険給付の取扱いも改善される見通しとなりました。
(1)給付額の見直し
※事故による負傷又は一つの就業先の負荷に起因する疾病等の場合
被災労働者の稼得能力や遺族の被扶養利益の喪失の補填を図る観点から、副業・兼業をする労働者の休業補償給付等については、非災害発生就業先の賃金額も加味して給付額を決定することが適当であるとされました。
ただし、非災害発生就業先の事業主が、当該労災について労働基準法に基づく災害補償責任を負うこととするのは不適当であり、災害発生就業先の事業主が、非災害発生就業先での賃金を基礎とした給付分まで労働基準法に基づく災害補償責任を負うこととすることもまた、使用者責任を著しく拡大するものであり不適当であるとされています。
(2) 労災認定の基礎となる負荷について
※それぞれの就業先の負荷のみでは業務と疾病等との間に因果関係が見られない場合
副業・兼業をする労働者について、それぞれの就業先の負荷のみでは業務と疾病等との間に因果関係が見られないものの、複数就業先での業務上の負荷を総合・合算して評価することにより疾病等との間に因果関係が認められる場合、新たに労災保険給付を行うことが適当であるとされました。
しかし、それぞれの就業先における負荷のみでは業務と疾病等との間に因果関係が見られないことから、いずれの就業先も労働基準法に基づく災害補償責任を負わないものとすることが適当であるとされています。
以上のとおり、副業・兼業をする労働者に対する労災保険給付が改善される見通しとなっています。なお、本稿は2019年12月時点の情報に基づいて記載されており、今後の法改正等とは内容が異なる場合があります。
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