GERBERA PARTNERSブログ

中国|通勤に関する労務問題

2020/12/14

Q、中国で従業員を雇用しようとしています。従業員への通勤手当の支給の要否や、税・社会保険料などの取扱い、従業員が通勤途上に事故にあった場合の責任など、通勤に関して気をつけるべきことや法律の内容などを教えてください。

      A、従業員に通勤手当を支給する義務はありませんが、支給した場合は、税・社会保険料の計算に含めます。また、通勤の労災認定については、日本の通勤災害の認定と似た内容となっています。以下の解説により、根拠や具体的な内容をご確認ください。       

解説(公開日:2020/12/14  最終更新日:2021/01/21 )

 

はじめに

新型コロナウイルスから身を守る通勤手段としてシェアサイクルの需要が高まっています。電車での通勤に比べて、自転車やバイク、車での通勤は、従業員が事故を起こす可能性も事故にあう可能性も高まります。今回の記事では、通勤に関する中国の労務問題についてご紹介します。

 

1.通勤手段の制限は可能か?

従業員の通勤手段を社内の規則制度により制限する会社がありますが、従業員がどのような交通手段を選んで通勤するかは個人の決めることであり、会社は通勤手段を強制する権利がありません。

 

2.通勤に要する費用の取扱い

(1)通勤手当の決め方

中国において、企業が従業員に対して通勤手当を支払う義務はありませんが、社内の賃金制度などにおいて通勤手当の支払いについて定めることができます。

通勤手当を支払う場合、支給額の決定については、次のような方法が通常です。

  1. ・月固定金額 例:月200元
  2. ・日固定金額 例:出勤1日につき20元
  3. ・通勤に要した費用の実費を精算する

など

 

(2)残業代単価の計算

残業代単価の計算基準は地方によって異なりますが、上海市を例とすると、「上海市企業賃金支給方法」第9条に、「残業手当と休日賃金の計算基数は、労働者の職場に対応する正常出勤月額賃金であり、年末ボーナス、通勤交通手当、食事手当、住宅手当、中夜勤手当、夏期の高温手当、残業手当などの特殊な状況で支払う給与を含まない。」と定められており、通勤手当は残業代単価の計算に含まれません。

 

(3)所得税、社会保険の計算

「個人所得税法」第2条、「個人所得税法実施条例」第6条に、通勤手当は給与賃金の一部であり、個人所得税の対象となる所得に該当することが定められ、「社会保険納付基数の基準に関する問題についての通知」第3条4(6)により、通勤手当が社会保険の計算の基礎賃金に含まれることが明示されています。

 

3.通勤に関して問題が生じた場合の取扱い

(1)会社は、支払い済みの通勤手当の返還請求ができるか

月や日ごとに定めた固定額を支払うとしている場合には、社員の通勤方法を問わず、定めた金額を支払わなければなりませんが、通勤の実費を通勤手当として支払うとしている場合には、自転車やバイクでの通勤は実費が発生しないため、返還を請求することができます。他人の発票を提出して虚偽の精算をするなど悪質な場合には、従業員が会社の規則制度及び誠実信用の職業道徳に違反しているとして、会社に経済補償金の支払い無しで当該従業員との労働契約の解除を認めた判例もあります。

 

(2)通勤途中に事故を起こして労働者が被災した場合、労災で保護されるか

中国「労災保険条例」第14条(6)において、通勤途中に、本人に主な責任がない交通事故または都市軌道交通・旅客輸送フェリー・列車による事故により被災した場合に労災と認定されることが定められています。また、「通勤途上」とは以下のような状況をいいます。

  1. (一)合理的な時間内に勤務地と住所地・通常の居住地・会社の宿舎との合理的な経路を往復する通勤途中
  2. (二)合理的な時間内に勤務地と配偶者・父母・子女の居住地との合理的な経路を往復する通勤途中
  3. (三)日常の仕事と生活に必要な活動に従事し、合理的な時間と合理的な路線の通勤途中
  4. (四)合理的な時間内にその他合理的な経路での通勤途中
 

(3)通勤途中に事故を起こして加害者となった場合、会社が責任を負うか

一般的には、通勤途中に事故を起こして加害者となった場合には、会社は事故の被害者への賠償責任を負わず、通勤途中で事故を起こした労働者個人が加害者として、被害者に賠償をしなければなりません。通勤などの勤務時間外の行為については、行為の内容、時間、場所、行為の名義及び行為の受益者、会社の意志に関連があるかどうか等を総合的に見て、職務行為であるかどうかが判断されます。

 

まとめ

通勤手当の取扱いは社会保険・税について日本とは異なる内容となっています。一方、通勤途上の災害の認定については日本と似た内容となっています。通勤は、業務時間外のことであり、労働そのものではありませんが、労働者の権利、使用者の義務にもかかわる内容です。現地の法律をしっかりと理解して対応していきましょう。

 

本稿は、みずほ銀行が発行するメールマガジン「Mizuho China Monthly 2020年11月号」に寄稿させていただいたものを再編集したものです。「Mizuho China Monthly 2020年11月号」の記事では、通勤に関する問題で会社が従業員を解雇し、会社側が認められた判例のご紹介と詳細な解説なども記載しています。ぜひご参照ください。

   

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