2021/10/05
A、結論から申し上げますと、従業員持株会が民法上の組合の場合は、他の個人株主と同様に譲渡所得税の申告で問題ありません。
従業員持株会には、法的な性格から「民法上の組合」「法人格のない社団」「任意団体」として設立する3つの形態があります。それぞれの立ち位置をしっかり考えればおわかりいただけるかと思います。
「民法上の組合」は、民法667条の規定に基づき、複数の当事者が出資して、共同の事業を営むことによって設立されます。この場合、組合は個人の集合体として考えられますので、法人格がないことになります。従いまして、従業員持株会自身では株主にはなれず、所有する株式等の財産は、会員の共有となり、会員個人が受け取る分配金は会員個人一人一人に配当所得として課税が行われることになります。
「法人格のない社団」は、法律上正式な法人格を有さないものの、組織としての一体性があり社会的には一つの社団としてみられる場合で、税法上は法人格を有することとなります。よって、この社団自体に法人税が課税されることになり、従業員持株会が受け取る配当金は構成員の雑所得となり、会員個人は配当控除の適用を受けることが出来ません。
「任意団体」としての設立は信託銀行の場合が典型といえます。信託銀行では従業員持株制度を信託業務と結び付け、従業員持株信託を導入しています。従業員持株会の理事長は会員の代理人として、信託銀行と信託契約を結び、名義人となった信託銀行が株式の運用を行います。この場合、従業員持株会は単なる任意団体にすぎないので、財産を保有することはありません。「民法上の組合」と同じく従業員持株会の会員個人が配当を受け取ることになります。
実務的にはほとんどが「民法上の組合」です。「任意団体」はコスト面から非上場会社には不向きですし、「法人格のない社団」は法人税の申告も必要となることから、圧倒的に非上場会社では「民法上の組合」が採用されています。
今回のご質問ですが、もうおわかりの通り「民法上の組合」の場合は、会員一人一人が自社株式を直接保有していることと全く変わりませんので、売却の場合はそれぞれが譲渡所得税の申告をすることになります。
ちなみに、「法人格のない社団」の場合ですと、自社株式をそのまま会員に分配する方法と、自社株式を売却して現金で分配する方法、いずれにおいても各会員である従業員は一時所得として所得税が課税されることになります(所得税基本通達34-1、所得税基本通達35-1)。
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