2019/07/05
日本と中国の間で、それぞれの相手国に派遣される赴任者や駐在員の多くは、自国の年金制度の加入を残したまま相手国で勤務をしています。しかし、派遣期間中は相手国の年金制度へ加入することが義務付けられるため、2国の年金制度で二重加入となり、それぞれの保険料支払いが、企業と赴任者にとって大きな負担となっています。
また、相手国の年金制度に加入できる期間は、派遣期間のみとなるため、年金受給要件を満たすことができず、結果的に保険料が掛け捨てになってしまうことケースが多く見受けられます。
今回の日中社会保障協定により、年金制度において、派遣期間が5年以内の場合は、二重加入が防止され、自国の制度に加入を残している場合には、相手国での制度加入が免除されることになりました。
それでは今回の日中間の協定の内容について見ていきましょう。
通常、社会保障制度の適用や加入は、働いている国のルールに従う必要があります。
日本と同じような、国籍に依らず法人等で働く人すべてを対象とした社会保障制度を持つ国に、自国の社会保障制度の加入を残したまま、派遣される場合には、相手国でも社会保障制度に加入し、二重の保険料を負担するということが起きてしまいます。
また、相手国の社会保障制度のうち、年金制度の加入したものの、加入している期間が短期間であるため、年金受給要件を満たすことができず、保険料が掛け捨てになってしまうことになります。
このような問題を解消する為に、国同士で結ばれるのが社会保障協定です。
社会保障協定で定められる主な内容は次の2点です。
1.二重加入の防止
二重加入で生じる「保険料の二重負担」を防止するために加入するべき制度を二国間で調整する
2.年金加入期間の通算
受給資格を確保するために、両国の年金制度への加入期間を通算することにより、年金受給のために必要とされる加入期間の要件を満たしやすくする
現在、日本は22か国と協定が署名済みとなっており、このうち中国を含む3国は未発効となっていました。
日本と中国間の社会保障協定は、年金制度における二重加入の調整のみを対象としており、年金加入期間の通算はされません。
対象となる年金制度は次のものです。
雇用される派遣元国で年金制度に加入を残して、相手国に短期間派遣される間は、相手国での年金制度への加入は免除されます。
今回のご質問のように、日本の企業に勤める従業員が、中国に派遣される場合、厚生年金の加入を残したままであれば、派遣期間中の中国での被用者年金の加入は免除されます。
なお、日本から中国に赴く場合であっても、つぎのかたは対象とはなりません。
次に、協定の対象となる期間ですが、原則は5年以内とされています。
派遣期間の長さに「見込み」は必要なく、派遣開始日を起算とした5年間です。
なお、派遣期間が5年を超える場合については、申請に基づき、両国関係機関間で個別に判断の上合意したときには、引き続き派遣元国の年金制度のみに加入することができます。ただし、その延長期間は原則として5年を超えないこととされています。
一方で特段の事情がある場合には、派遣期間が合計10年を超える場合でも、申請に基づき、両国関係機関間で個別に判断の上合意したときには、さらに引き続き派遣元国の年金制度のみ加入が許され、相手国側の年金制度の加入は免除されます。
1.日本から中国への派遣
① 発効日以降に中国に派遣される場合
中国への派遣者に関する適用証明書の交付については、協定発効日の1か月前である、2019年8月1日から年金事務所または事務センターにおいて、交付申請を受け付けます。
適用証明書は協定発効日、2019年9月1日以降に交付されて順次発送されます。
交付された証明書は、中国に派遣後速やかに、派遣先の中国の事業所を通じ、その派遣先事業所を所管する社会保険料徴収機関に原本を提出してください。
なお、提出した原本については、当該機関で写しを取った後に返却されることとなっています。
② 協定発効前から日本から中国に派遣されている場合
協定発効日の2019年9月1日より前から、日本の事業所により既に中国へ派遣されている従業員は、協定の規定により、協定発効日に中国へ派遣されたものとして取り扱われ、協定発効日から5年間は日本の年金制度のみに加入し、中国の年金制度の加入は免除されます。この場合、2019年8月1日以降、年金事務所または事務センターに対して適用証明書の交付を申請します。この後の手続は①と同様です。
2.中国からの日本への派遣
中国から日本に派遣される、中国企業の従業員が、日本の社会保障制度への加入が免除されるには、中国の社会保障制度に加入していることを証明する「適用証明書」を、制度を管轄する中国の機関「人的資源社会保障部」に交付されなければなりません。
来日後、日本の事業所に適用証明書を提出してください。
※ 年金事務所が提示を求めた時、また調査の際に、日本の社会保障制度に加入していない理由を尋ねられた時には、適用証明書を提示してください。
日本と中国の間では、相手国への企業進出は活発で、それに伴う人的な交流も同様です。
二重加入による、保険料のダブル負担は、これまでも企業にとって問題となっていたため、今回の協定の発効は歓迎されています。
協定の内容を有効にするには、前出の手続が必要ですので、漏れのないように海外派遣前の準備の一つとして組み込んでください。
社会保険労務士法人ガルベラ・パートナーズでは、企業の海外進出に関する、赴任者の処遇や社会保険の適用に関してご相談を承っております。どうぞお気軽にご相談ください。
参考資料:日本年金機構「社会保障協定」