GERBERA PARTNERSブログ

労務管理|【企業リスク】未払賃金の消滅時効が5年に延長されるのですか?

2019/08/19

Q、賃金の消滅時効が5年になると聞きました。未払残業代を請求するという行為に対してインセンティブが働きやすいビジネス環境になるのではないかと想像され、経営環境がますます厳しくなることを懸念しているのですが、どのような懸念があるでしょうか?



 

A、勤怠管理(始業終業時刻の記録)、割増賃金の計算等、これまで以上に明確な書面管理が必要になると考えます。何となくの信頼関係や慣行といったものに頼った労務管理は、会社が一方的にリスクを抱え込むことになり、これからの時代への対応が難しくなると考えます。

 

解説(公開日:2019/08/19 最終更新日:2019/09/25)

 

【1】労働法令の改正に向けた動きについて

 

厚生労働省「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」(座長 山川隆一 東京大学大学院法学政治学研究科教授)にて検討が進められています。

 

ご承知のとおり、現行の労働基準法では、「賃金、災害補償、その他の請求権は2年間行使しないときは消滅する(客観的起算点)」とされています(退職手当の請求権は5年間)。

 

現行法下においても、未払残業紛争は多発しており、その解決は様々にございます。
労働基準監督署の調査をきっかけに是正勧告を受け、過去3ヶ月程度の清算で事態を収束させるようなケースでは、一人当たり数十万円の支払といった事例もあります。また、訴訟になるような案件では、過去2年分に遅延利息や付加金が加算され、一人数百万円レベルの支払が行われる事例もあるようです。

 

さて、2020年4月1日施行の民法改正では、簡素化・統一化のため、使用人の給料等に係る短期消滅時効(1年)は廃止した上で、債権の消滅時効は次のようになります。

 

  1. (1) 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき(主観的起算点)
  2.  

  3. (2) 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき(客観的起算点)

 

この民法改正に伴い、賃金請求権の消滅時効についても改正が検討されています。検討会での議論のポイントは次のような内容になっています。

 

  1. (1) 消滅時効期間を延長することにより、企業の適正な労務管理が促進される可能性等を踏まえると、将来にわたり消滅時効期間を2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要ではないかと考えられる。
  2.  

  3. (2) ただし、労使の意見に隔たりが大きい現状も踏まえ、消滅時効規定が労使関係における早期の法的安定性の役割を果たしていることや、大量かつ定期的に発生するといった賃金債権の特殊性に加え、労働時間管理の実態やそのあり方、仮に消滅時効期間を見直す場合の企業における影響やコストについても留意し、具体的な消滅時効期間については引き続き検討が必要である。
  4.  

  5. (3) 新たに主観的起算点を設けることとした場合、どのような場合がそれに当たるのか専門家でないと分からず、労使で新たな紛争が生じる恐れがある。
  6.  

  7. (4) 民法改正の施行期日(2020年4月1日)も念頭に置きつつ、働き方改革法の施行に伴う企業の労務管理の負担の増大も踏まえ、見直し時期や施行期日について速やかに労働政策審議会で検討すべきである。

 

【2】将来想定される労務管理

 

このような法改正について、労務管理の現場にどのような影響があるのかについては様々な立場からご意見があろうかと思います。基本的には望ましい法改正と考えられますが、例えば次のような懸念をする意見もあるようです。

 

  1. (1) 会社側の労務管理不備(債務不履行)があれば金銭精算で解決しようとするインセンティブが強化される方向になると考えられます。結果として、労使双方において、契約行為としての防衛的な意識が働きやすい状況になると考えられます。(安易に採用しない。安易に合意しない。お互いを安易に信用せずに何事も書面確認を取る。)
  2.  

  3. (2) 企業リスクの観点から、労働契約を忌避する動きが強まると考えられ、業務委託等の外注化が促進されるものと考えられます。派遣労働者は直接の雇用責任が発生しないため、さらに重用されるようになるものと考えられます。
  4.  

  5. (3) 基本給を昇給させること、所定労働時間を短縮すること、所定休日を増やすこと、こうした労働者有利改定はそのまま割増賃金単価の上昇を招きます。「労働者のモチベーションアップ効果」<「割増単価上昇の企業リスク」となり、労働条件の改善に対しては抑制的な経営判断が多くなると考えられます。
  6.  

  7. (4) 企業としては偶発債務を防止する観点から、給与支給のつど、未払金は存在しない旨の債務不存在確認書を徴求してリスクヘッジをするような動きが想定されます。それに対して労働者側戦術として「当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しない」といった抗弁で書面を無効化することが一般化することも想定されます。こうしたやり取りが活発化することが我が国の生産性に寄与するか否かについては、あまり肯定的な意見は聞かれないようです。
  8.  

  9. (5) 時間当りの労働の成果にこだわるよりも、在社時間を蓄積して換金するという在り方に相当の経済合理性が生まれると考える人もいます。5年ごとにスキップする在り方も可能になります。このような在り方で生計を立てるドメスティックな層が増える反面、対極的なインセンティブで付加価値にこだわる層がグローバル展開していく等、国内外でダイナミックな動きが促進されると想像されます。
  10.  

  11. (6) 未払賃金紛争を防止するためには、労働時間の厳密管理が必要になります。現行の通達上、始業・終業時刻について、PCログインログオフや出退館時刻等のログとの照合が推奨されていますが、この方法では、途中時間の実態確認ができず、実務的メリットがないと考える企業が多いようです。厳密にリアルタイム管理を実施するということを技術的に突き詰めれば、労働者を常時モニタリングする監視装置が最適解ということになりますが、これを徹底させようとする企業側とこれを嫌う労働者との間で軋轢が発生することが想定されます。

 

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