2019/12/13
A、テレワークのあり方については、企業ごとの判断に委ねられており、厚生労働省や公的機関のひな型のようなものは存在しないようです。テレワークは労働者に自由を認めるという意味で歓迎されやすいものですが、無制限に認めてしまうとトラブルになりやすいものです。将来的な組織運営を考えながら「認めるべき部分」と「制約すべき部分」を検討すべきと考えます。
本稿では、テレワークを実施するために必要な総則的な社内規程を作成することを想定して、定めるべき論点を検討したいと思います。
広く社外勤務のことをテレワークと言いますが、勤務形態に応じていくつかのカテゴリーがあるように思われます。自社では、どのようなものを「テレワーク」として想定しているのか、イメージのズレがないようにご検討ください。
(1) いわゆる「在宅勤務」のこと
社員の自宅において会社が認めた情報通信機器等を用いて行う勤務を言います。通勤の必要がないというメリットを活かし、従業員個人の生活と両立した勤務が可能となります。
(2) いわゆる「サテライトオフィス勤務」のこと
社外のシェアオフィスとか立ち寄り拠点を活用して業務を行うことを言います。通勤時間や移動時間を短縮できたり、社員の業務スタイルに合わせた環境を活用することで、業務の効率性を高めることが可能となります。
(3) いわゆる「モバイル勤務」のこと
営業職等の外勤者が客先や出先で業務を行うことを言います。出先で業務完結できるため、顧客接点で付加価値を生み出していく職種の業務効率を向上させることが可能となります。
無限定でテレワークを認めることも可能ですが、全員がテレワークを希望し、誰も出勤しなくなると会社の運営が成り立ちません。「必要な事由」がある社員を優先的に認めることが一般的です。一例を示します。
無期限でテレワークを認めることも可能ですが、将来的に事業環境や人事政策の変化により通常勤務に戻っていただく必要があるかもしれません。通常は「一事由につき原則として●●ヶ月とする。ただし、会社が必要と認める場合はその期間を更新する。」といった形で有期更新制を採ることが一般的です。
会社の人事上の必要で通常勤務に復帰していたく可能性は想定しなければなりません。その他に、「パフォーマンス不良」「勤怠不良」「情報管理の不良」等で、テレワークの継続に重大な支障が出ることも想定して、テレワーク適用の解除条項を入れておくべきです。
テレワークであっても原則として勤怠打刻が必要です。最近では、web打刻可能なクラウド勤怠が一般的ですからシステム的には対応可能と思われますが、実態確認が難しくなりますので、メールの送受信や業務日報等と照らし合わせて、打刻内容が妥当かどうかの確認を行う必要があります。
なお、一定の条件においては、「所定労働時間みなし」を適用できる場合がありますが、あくまで限定的な状況を想定していますので、「毎日みなし」は形骸化しやすく不適切運用になりやすいためご注意ください。
※平成30年2月22日「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」より、所定時間みなしを適用するための要件の要旨
(1) 業務が自宅又は社外で行われること。(部分的にでも出社している場合は実態に合わせた打刻が原則となります。)
(2) パソコンや携帯電話等の通信機器が、会社の指示で常時通信可能な状態となっていないこと。(機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態を指し、従業員が任意で機器の電源を入れている状態は「常時通信可能」とは判断しない。)
(3) 業務が随時会社の具体的な指示に基づいて行われていないこと。(当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これら基本的事項について所要の変更の指示をすることは含まれない。)
通常勤務者と原則同じになります。振替休日や年次有給休暇の申請については、通常勤務者と同じ申請システムにて管理することになります。
なお、自宅勤務で「業務時間」と「私用時間(休憩)」が断続的に発生する状況では、勤怠管理が極めて難しくなります。可能な限り、私用時間を中抜けとして勤怠システムに記録することが望ましいですが、一定の状況化であれば、前述のとおり所定労働時間みなしを活用することで社員と協議するのも一案と思われます。断続的な状況であっても、実態として所定労働時間相当の業務負担であれば社員の理解も得やすいと思います。
テレワークの適用により給与面での変動が伴うことが多いですが、次のような点にご注意ください。
(1) テレワークであること(出社しないこと)を理由として、当然のように職位や給与の引き下げが認められるものではありません。テレワークにより、組織内のマネジメント業務(管理職業務)から外れるような場合でも、あくまで合意の上で労働条件を締結し直すことが必要と考えられます。
(2) 出社がないことを理由に「通勤手当を支給しない」ことは合理的とは考えられますが、根拠規定なく一方的に支給カットすることは不利益改定としてトラブルになる可能性もあります。給与規程やテレワーク規程に、通勤手当の支給・不支給要件を明記しておくことが望ましいと考えられます。
(3) 固定残業代が採用されている企業において、テレワークにより労働時間が減少することが見込まれたとしても、当然のように固定残業代をカットすることは不適切と考えられます。労働契約の不利益変更に該当しますので合理的な説明と労使同意において進めていただく必要があります。
(4) テレワークであることを理由に人事評価の不利益運用が許容されるものではありません。業務実態に合わせて合理的な評価方法を採用することは問題ないと考えられますが、一方的に不利益を受けるようなテレワーク特例はトラブルの原因になりますので、ご注意ください。テレワーク社員のみ「昇給の対象外にする」とか「賞与は支給しない」等の不利益特約は労働契約法第11条(就業規則違反の労働契約)に抵触し、無効を争われる原因になる可能性が高いと考えられます。
基本的には、会社が貸与する情報機器を使用させることが望ましいです。私物の情報機器を使用することで、公私混同や流出事故が起こりやすくなります。
なお、会社貸与機器に関する費用は会社負担であることが一般的ですが、自宅のネット回線を使用する場合などは、その費用負担を決めておくことが望ましいです。また、在宅勤務の場合は、光熱費や消耗品費も発生しますので、取り決めしておくことが望ましいです。基本的には、在宅勤務者の希望に基づいて自宅勤務を許可しているケースが多いと思いますので、自宅回線や光熱費等は、労働者負担とするのが自然と思われます。
自宅や社外での作業は、情報が第三者の目に触れたり、資料が紛失するリスクが高くなりますので、情報管理規則の制定は必須です。基本的な部分ですが、次のような点には注意喚起が必要と思われます。
(1) 会社指定の機器以外は使用しない。(USBメモリ、私物のスマホやハードディスク等)
(2) IDとパスワードの管理徹底。定期的な変更。
(3) 衆人環境下でのスクリーンフィルターやログイン制御等の対策。印刷資料などの置き忘れ注意。
(4) 公共の無料wi-fiの使用禁止。その他、私用アドレス、フリーメール、無料オンラインストレージ等安全性に問題のある通信手段の使用禁止。
(5) 電話マナーの徹底。企業名・個人名・機密情報を含む話を、他人に聞かれる恐れのある環境下で通話を行わないこと。
(6) 情報漏洩が疑われる事故(インシデント)が発生した場合には、直ちに報告すること。その際の緊急連絡網の整備。
労働災害(業務外出中の事故等)、定期健康診断、ストレスチェック、産業医の面接指導等の法定事項は、通常勤務者と同じく適用されますので、会社の指示に従い、実施する必要があります。
また、研修等の受講義務も通常勤務者と同じく適用されますので、会社の指示に従い、実施する必要があります。
その他にも、テレワークの実施においては、各種ハードウェアの導入や、各事業部門における報告やコミュニケーションの取り方など、定めるべき実務的なルールはあります。
人事労務管理の観点からは、一般的には、以上のような総則的なルールを定め「テレワーク規程」として取りまとめをすることが望ましいと考えられます。
弊社では、実務的な観点から、労務管理や人材管理の整備をご支援させていただいております。人事労務管理でお悩みの場合は、お気軽に下記問い合わせフォームよりお申し付けください。
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