2021/05/28
A、採用にあたり、応募者に病歴を聞くこと自体は可能ですが、職業安定法や個人情報保護法による制限があります。必要な範囲に限定して慎重に行いましょう。
採用選考については、厚生労働省のサイトやパンフレット「公正な採用選考を目指して」に記載されているとおり、
の2点を基本的な考え方として実施することが大切です。
「公正な採用選考を目指して」パンフレット
(該当箇所「公正な採用選考の基本」は4ページ)
求人にあたっての情報の収集については、職業安定法に定められています。
(求職者等の個人情報の取扱い)
第五条の四 公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者(次項において「公共職業安定所等」という。)は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(以下この条において「求職者等の個人情報」という。)を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
(最終改正 令和3年厚生労働省告示第162号:PDF)
第四 法第五条の四に関する事項(求職者等の個人情報の取扱い)
一 個人情報の収集、保管及び使用
(一) 職業紹介事業者等は、その業務の目的の範囲内で求職者等の個人情報(一及び二において単に「個人情報」という。)を収集することとし、次に掲げる個人情報を収集してはならないこと。ただし、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りでないこと。
(二) 職業紹介事業者等は、個人情報を収集する際には、本人から直接収集し、又は本人の同意の下で本人以外の者から収集する等適法かつ公正な手段によらなければならないこと。
これらの内容から、求職者から情報収集するにあたっては、
また、病歴は、個人情報保護法に定める要配慮個人情報に該当します。収集にあたっては特に注意が必要です。あらかじめ利用目的を伝えたうえで同意を得て取得することが必要です。
(適正な取得)
第十七条 個人情報取扱事業者は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない。
2 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない。
(以下略)
(取得に際しての利用目的の通知等)
第十八条 個人情報取扱事業者は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければならない。
(以下略)
個人情報の保護に関する法令・ガイドライン等(個人情報保護委員会)
既往歴の確認については、厚生労働省パンフレット「公正な採用選考をめざして」に、問題例として記載があり、就職差別につながるおそれがあるものとされています。
また、採用時の健康診断についても、同パンフレットに「採用選考時における健康診断は、その必要性を慎重に検討し、それが応募者の適正と能力を判断する上で合理的かつ客観的に必要である場合を除いて実施しないようお願いします」とあります。
「公正な採用選考をめざして」(厚生労働省:PDF)
(該当箇所9ページ及び10ページ)
しかし、会社では、必要があり求人し、採用をしているにも関わらず、労働契約を締結した途端、持病により配置予定であった業務に就かせられないことが分かったり、フルタイム勤務で働ける人を求めて採用活動を行い、労働契約を締結したにも関わらず、実は以前からの持病によりフルタイム勤務が難しく、欠勤しがちで十分な業務ができないということでは、採用の目的を達成することができません。
企業には、採用の自由があり、応募者に対する調査を行う自由があります。採用にあたり、健康診断を実施したり、健康に関する情報提供を求めることは、企業が絶対にしてはいけないことではありません。
判例では、本人に対して説明もなく同意を得ずに健康診断項目を追加し、B型肝炎ウイルス感染の血液検査を実施して感染の有無について情報を取得したこと(B金融公庫(B型肝炎ウイルス感染検査)事件 東京地裁 平成15年6月20日判決)や、医療機関が、内定者について自身の医療機関での受診歴を確認して採用活動に利用したこと(社会福祉法人北海道社会事業協会事件 札幌地裁 令和元年9月17日判決)について、プライバシー権の侵害をしており違法とされています。
利用目的についてあらかじめ説明を行い、正しく同意を得て行われる情報収集は違法ではありません。また、健康診断結果とは異なり、口頭や文書で聞かれた場合、本人が知らないうちに情報を取られてしまうということはありません。
ここから、「応募者の基本的人権を侵さない」、「業務の目的の達成に必要な範囲内で行う」という原則を守ることを前提としたうえで、
情報収集することをおすすめします。
同意の取得方法については、ガイドラインをご確認ください。
2-12 「本人の同意」(個人情報保護委員会)
【本人の同意を得ている事例】
会社が病歴を確認したところ、予定していた業務には配置できそうになかったり、定期的に通院しなければならない状況であったりということが分かったとしても、それだけで不採用と決めつけてしまうのではなく、適性や能力で採用を決めるようにしてください。
体に負担の少ない業務の仕方について検討して導入したり、業務の体制を整えて、突発的な休みにもバックアップができるようにすることなどで、難しいと思っていた方の採用をしても問題なく業務がまわり、採用した方に力を発揮してもらえることもあります。
内容によっては、ご本人や周りの方の身体生命の安全などの観点から、この病気の場合にはこの業務に就かせられないという会社の判断もあるでしょう。また、配慮をしても業務上どうしても難しいということもあるかもしれません。しかし、そうでない限りは、病歴の取得は、持病のある方を採用対象から避けるためではなく、適正・能力によって採用したい方について、就業や労働時間について何かしらの配慮が必要であれば事前に把握しておくため、という観点でお願いいたします。
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