2018/10/29
働き方改革法案をはじめとして、同一労働同一賃金という言葉がにぎわう中、ユニオン(合同労組)に加入して派遣元、派遣先双方に団体交渉を求めてくるケースが増えています。派遣社員は派遣先の労働組合に加入することはできず、多くの場合、ユニオンに加入して団交を申入れます。
まず法令上、派遣先に団交応諾義務があるかを判断するために派遣法における両者の関係を確認します。
(派遣法2条1項)
「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」
つまり派遣社員は、派遣元との間で「雇用関係」があり、派遣先との間で「指揮命令関係」が存在します。
次に、派遣先が労働組合法上の使用者に該当するのかを確認してみます。
(朝日放送事件)
「基本的な労働条件について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することが出来る地位にある場合にはその部分において労働組合法7条の「使用者」に該当する」
派遣法44条ないし47条の2において、派遣先は部分的な労働条件について使用者としての責務を負っていることも相まって、当該条件については上記判例に照らして労組法上の使用者とみなされる可能性が十分にあり得ます。過去にはフランチャイザーや事業譲渡先が労組法上の使用者と認められたこともあるため、比較的広い範囲で使用者性が認められることもあるようです。
<派遣先が使用者とみなされやすい労働条件>
一方、派遣法では苦情処理制度に関する規定が設けられており、派遣社員は全ての労働条件に関する申し立てについて法的な保護を受けています(40条1項)。この観点からすると、派遣先は当該苦情処理制度に関する自らの責務を果たすことで十分という見方もできます。
上記の派遣先と派遣社員の関係からすると、団交申入れがあった場合は団交という形式をとるかどうかは別として、派遣先としては適切な対応が必要と考えます。
派遣先に団交申入れがある場合は、派遣元にも同様の申し入れがあることが多いので、差し当たっての対応としては派遣元と連携して対応方針を確認しつつ団交は一義的に派遣元が対応するというのが妥当かもしれません。
しかし、あくまでも派遣先との団交にこだわるようであれば、要求内容により部分的に対応するという判断も出てくると思われます。その場合でも賃金等の条件については拒否するなど状況に応じた対応で臨むのが良いでしょう。
労働者派遣という特殊な関係であり、明確な規定が無い取扱いであるため判断に迷う部分がありますが、今回記載した判断基準により対応するのも一つかと思います。
こうした要求が発生しないような労務管理が何よりの対応だと思います。しかし、起きてしまった以上は、誠意に欠ける行動は避けることは言うまでもありませんが、不当な要求に対しては毅然とした対応をとるといった姿勢が重要かと考えます。
弊社では、派遣元、派遣先にかかわらず、労働者派遣に関する多くの事例を経験した社会保険労務士が、実務上の観点から様々なご相談に対応させていただいております。ぜひお気軽にご相談ください。