2021/09/13
A、コロナ禍後、厚生労働省でも「近年の急速なデジタル技術の進展に伴い、情報通信機器を用いて面接指導を行うことへのニーズが高まっている」との現状認識を受け、各種の行政通達を発出しており、オンライン実施に対して寛容になりつつあります。
コロナ禍だからできないのではなく、コロナ禍だからこそ業務の効率化を進めて、即時性と実効性のある安全衛生業務を構築していくチャンスと捉えるべきです。
安全衛生委員会にならび、対面性の点から、コロナ禍で実施が困難になっているものに「医師による面接指導」があります。
本稿では、「医師による面接指導」をテーマに、そもそもどういう状況で「医師による面接指導」が必要になり、それをオンライン実施する場合にどういった点に留意すべきかをまとめたいと思います。会社の産業医等と協議が必要になると思われますが、上手く実現することで、各関係者のメリットになる話と思われます。利用できる局面であれば積極的にご検討いただきたいと思います。
労働安全衛生法上、次の4つが挙げられています。企業実務上、発生しやすいのは1の類型(特に36協定で上限が適用されずに長時間になりやすい管理監督者)、4の類型(ストレスチェックの結果が高ストレスで検出された労働者)が多いのではないかと思われます。
労働安全衛生法第66条の8第1項 | 労働者(裁量労働制、管理監督者含む) | 月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接を申し出た者。 | |
労働安全衛生法第66条の8の2第1項 | 研究開発業務従事者(労働基準法第36条第11項) | ・月100時間超の時間外・休日労働を行った者。 ・月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接を申し出た者。 |
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労働安全衛生法第66条の8の4第1項 | 高度プロフェッショナル労働者(労働基準法第41条の2) | 1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた時間について月100時間超行った者。 | |
労働安全衛生法第66条の10第3項 | ストレスチェックの事後対応として必要な労働者 | ストレスチェック結果で「医師による面接指導が必要」とされた労働者から申出があった場合。 |
人事担当者としては、法令上の義務(医師による面接指導の必要性)は理解しつつも、労働者本人の意向確認がやりにくい、産業医との日程調整が難しい等の理由で、なかなか実務的には着手しにくい点なのではないかと推察いたします。
そうした放置が続いてしまいますと、労働基準監督署の安全衛生指導で指摘を受け、是正勧告を受けてしまうという事例は比較的多いのではないでしょうか。
オンライン実施について、下記に行政通達を引用させていただきます。
情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について
(基発0915第5号 平成27年9月15日、基発0704第4号 令和元年7月4日一部改正、基発1119第2 号 令和2年11月19日一部改正)
1 基本的な考え方
法第66条の8第1項において、面接指導は「問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うこと」とされており、医師が労働者と面接し、労働者とのやりとりやその様子(表情、しぐさ、話し方、声色等)から労働者の疲労の状況やストレスの状況その他の心身の状況を把握するとともに、把握した情報を元に必要な指導や就業上の措置に関する判断を行うものであるため、労働者の様子を把握し、円滑にやりとりを行うことができる方法により行う必要がある。ただし、面接指導を実施する医師が必要と認める場合には、直接対面によって行う必要がある。
近年の急速なデジタル技術の進展に伴い、情報通信機器を用いて面接指導を行うことへのニーズが高まっているが、情報通信機器を用いて面接指導を行う場合においても、労働者の心身の状況の確認や必要な指導が適切に行われるようにするため、以下2に掲げる事項に留意する必要がある。
2 情報通信機器を用いた面接指導の実施に係る留意事項
(1) 事業者は、面接指導を実施する医師に対し、面接指導を受ける労働者が業務に従事している事業場に関する事業概要、業務の内容及び作業環境等に関する情報並びに対象労働者に関する業務の内容、労働時間等の勤務の状況及び作業環境等に関する情報を提供しなければならないこと。また、面接指導を実施する医師が、以下のいずれかの場合に該当することが望ましいこと。
- ① 面接指導を実施する医師が、対象労働者が所属する事業場の産業医である場合
- ② 面接指導を実施する医師が、契約(雇用契約を含む)により、少なくとも過去1年以上の期間にわたって、対象労働者が所属する事業場の労働者の日常的な健康管理に関する業務を担当している場合。
- ③ 面接指導を実施する医師が、過去1年以内に、対象労働者が所属する事業場を巡視したことがある場合。
- ④ 面接指導を実施する医師が、過去1年以内に、当該労働者に指導等を実施したことがある場合。
(2) 面接指導に用いる情報通信機器が、以下の全ての要件を満たすこと。
- ① 面接指導を行う医師と労働者とが相互に表情、顔色、声、しぐさ等を確認できるものであって、映像と音声の送受信が常時安定しかつ円滑であること。
- ② 情報セキュリティ(外部への情報漏洩の防止や外部からの不正アクセスの防止)が確保されること。
- ③ 労働者が面接指導を受ける際の情報通信機器の操作が、複雑、難解なものでなく、容易に利用できること。
(3) 情報通信機器を用いた面接指導の実施方法等について、以下のいずれの要件も満たすこと。
- ① 情報通信機器を用いた面接指導の実施方法について、衛生委員会等で調査審議を行った上で、事前に労働者に周知していること。
- ② 情報通信機器を用いて実施する場合は、面接指導の内容が第三者に知られることがないような環境を整備するなど、労働者のプライバシーに配慮していること。
(4) 情報通信機器を用いた面接指導において、医師が緊急に対応すべき徴候等を把握した場合に、労働者が面接指導を受けている事業場その他の場所の近隣の医師等と連携して対応したり、その事業場にいる産業保健スタッフが対応する等の緊急時対応体制が整備されていること。
以上
ポイントを解説いたします。
まず、従来は「原則として直接対面によって行うことが望ましい。情報通信機器を用いて面接指導を行った場合も、労働者の心身の状況を把握し、必要な指導を行うことができる状況で実施するのであれば、直ちに法違反となるものではない。」として原則否定的であったところ、直近改正(令和2年11月19日)では、「近年の急速なデジタル技術の進展に伴い、情報通信機器を用いて面接指導を行うことへのニーズが高まっているが、情報通信機器を用いて面接指導を行う場合においても、労働者の心身の状況の確認や必要な指導が適切に行われるようにするため」として条件付き容認の方向に変化しています。
留意事項として次のような内容が示されていますが、それほど難解な要求事項ではないと思われます。
最終的には、企業側から産業医等にお話をしていただき、どこまで対応していただけるかの交渉になろうかと思われます。基本的には、関係者各位にメリットある方向のお話になろうかと思われます。
また、現時点で産業医が未契約の企業の場合は、この機会に、オンライン対応可能な産業医のご契約を検討いただくと、企業として、安全衛生管理のスピード感が上がり、体制整備が大きく前進するものと思われます。最近では、そうした産業医を紹介していただけるサービスも増えてきていますので、そうした紹介機関を利用してもよろしいかと思われます。
弊社では、実務的な観点から、労務管理や人材管理の整備をご支援させていただいております。人事労務管理でお悩みの場合は、お気軽に下記問い合わせフォームよりお申し付けください。
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