2018/12/12
テクノロジーの進化、経済活動のグローバル化、後継者不足等により、経営戦略実現の中でM&Aは日常的な手法となっています。広義のM&Aとして、合併、会社分割、事業譲渡、株式譲渡、業務提携などのスキームがあります。人事労務の観点では、所属法人が変更となる、合併、会社分割、事業譲渡について特に注意が必要であり、今回は合併、会社分割について取り上げます。
■ 労働条件全般
包括承継として従業員個人毎の同意取得は不要です。
承継される労働条件は、承継元の条件がそのまま承継先でも有効となります。その場合、承継先では異なる労働条件が混在する事になり適切な労務管理に支障が出ることも多いため、一般的には効力発生日(もしくは一定の期間経過後)に条件の統一が行われています。
通常は承継先の労働条件が適用されることになりますが、承継される従業員にとっては当該労働条件への変更が不利益変更に該当する場合もあり得ます。不利益変更が生じる場合、通常の労務管理と同様に、個別同意の取得か就業規則変更の手続きが必要となりますので、慎重な検討が求められます。
注)会社分割の場合は、承継対象となるか否かにより所属法人が異なるため、「個別協議」を含めた一定の労働者保護手続が法令等により定められています
■ 主な個別論点
① 有給休暇
残日数、起算日(入社日、勤続年数)は当然に引き継ぎます。
付与日の変更(入社日方式⇔基準日方式)や法定を上回る付与がある場合は、条件統一に際し不利益変更の有無と対処について検討が必要です。
② 退職金
承継元会社に制度がある場合、効力発生日で退職したならば支給される金額については既得権として保障しなければなりません。承継先に制度がある場合は従前制度の支給水準との比較を行うなどして不利益変更の有無と対処について検討が必要となります。その際、承継元会社からの勤続年数を通算するのかしないのか、過去勤務分については承継前に精算してくるのかなども検討します。承継先に制度がない場合、将来勤務分に対する退職金がなくなるという大きな不利益となるため、代替措置の検討が必要となります。
退職金は重要な労働条件であることから、制度変更時には個別同意を取得する場合が多いですが、具体的な不利益内容、程度を示したうえで個別同意を取得しないと、同意自体が無効となることがありますのでご注意ください(山梨県民信用組合事件:H29.2.19最高裁判決)。
③ 社会保険(健康保険、厚生年金)
事務処理としては、取得・喪失手続を行います。
健康保険に関しては、退職後の傷病手当金、出産手当金の要件に「退職日までに継続して1年以上の被保険者期間 (健康保険任意継続の被保険者期間を除く)があること」がありますが、合併や会社分割により所属法人が変わった場合でも継続期間は通算されます。但し、各法人で取得・喪失手続を行う際に1日でも被保険者期間に空白が発生すると要件を満たさなくなりますので資格取得日・喪失日にはくれぐれも注意が必要です。
また法人が変わることで健康保険の保険者(協会けんぽ、健保組合)が変更する場合があります。その場合、承継先での健康保険料率上昇(=手取給与減少)の問題や、健保組合独自で行っている付加給付が受けられない事の問題などが多々生じます。こうした点について、必ずしも同一の手当てをすることは難しいですが、代替措置も含め従業員の不利益への補填を検討することが必要となります。
④ 雇用保険
社会保険とは異なり、「新旧事業実態証明書」により「同一事業主」であるという認定を受けた場合、取得・喪失処理を行う必要はありません。認定を受けるための手続きを漏れなく行ってください。
以上が、合併、会社分割における労働承継のポイントとなります。
承継対象となる従業員にとっては、所属法人が変わるというだけで大きな不安を抱くものです。承継先での処遇や現状との相違点など、具体的かつ的確な説明が出来ないと、さらなる不安や経営に対する反感へとつながっていきます。M&A後のモラルダウンや大量退職に発展しないよう、お役立ていただければと思います。
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弊社では、これまでのM&A実務の経験をもとに、実務上の観点から様々なご相談に対応させていただいております。ぜひお気軽にご相談ください。
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