2019/10/11
A、費用をかけるところはかけ、かける必要のない支出は抑える必要があります。人件費は、負担すべきコストではなく、収益を生み出す投資の原資という前提で制度を運用し、生産性が高まる使い方をしましょう。
10月から最低賃金が上昇し、東京都はついに1,013円と大台を超えました。人手不足の影響で求人広告費も増え、人材確保のための処遇向上策もあり、人件費の負担が増えたと嘆く声をよく耳にします。本来は、従業員のパフォーマンスも向上し、人件費の増加も気にならないほど収益が上がればよいのですが、そうもいかないのが実態のようです。企業として成長スピードが落ちたり、優秀な人材や、順調に育った人材が退職してむしろ後退するケースも多々あります。では、決して安くはない人件費をどのように業績へ反映していけばよいでしょうか。
人件費はコストであると同時に、投資でもあります。大事な原資を投下する際に、リターンが見込める投資先を中心にポートフォリオを組む必要があります。以下の事例は、初歩的な勘違い(とはいえ、間々散見されます。)により人件費の分配を誤る典型例です。
(1)頑張っている(ように見える)人を評価する
現状の労働基準法通りに賃金を支払うと、要領や能力が悪い人ほど給料が高くなってしまう事になります。ある2人の従業員が全く同じ商品を同じ個数、同じ価格で販売するとします。A氏は毎月所定時間内にすべて販売が完了します。一方B氏は残業、休日出勤をしなければ販売できません。いつも定時に帰るA氏が評価されず、いつもがんばって残業しているB氏の評価が高いということは起きていないでしょうか?基本給や賞与で差があっても、残業代を含めた年収で比較して適正な設定となっているでしょうか?これは極端な例ですが、表面的な評価は判断を見誤りますので注意が必要です。
(2)偏ったKPIにより評価する
解り易いKPIとして「売上」を採用する事はよくあります(それ自体を否定するものではありません。)。例えば、「売上」をKPIとする場合、通常、コスト管理が徹底されているか、コストに関するKPIが設定されることが必要です。売上にかかる経費はもちろん、自身の残業代、上司の指導や周囲の部署・従業員に支援してもらっている工数も人件費として評価されるべきであることに注意が必要です。売上は高いけど、費用や見えない費用をかけすぎている人はいませんか?
(3)偏った基準で評価する
人事評価においては、「親近効果」、「対比誤差」、「論理誤差」など、陥りやすいエラーの典型例が一般的に掲げられています。
親近効果 | 親近感を覚える相手に対し評価が甘くなってしまうこと |
対比誤差 | 評価者自身(能力や長短所)と比較して評価してしまうこと |
論理誤差 | 評価者独自の論理や価値観で評価してしまうこと |
本来、企業目標の実現(企業秩序の維持、ケイパビリティの向上、収益増、対外的信用の拡大等)に貢献した従業員が評価されるべきですが、往々にして評価者の独断に近い形で評価されている場面を目にします。目指すべき目標(これを実現したら評価されるという具体的指標)は全社で共通に認識されていますか?不適切な評価、後付けの評価は、従業員のモチベーションを下げる逆効果を生じさせます。
以上より、本来評価されるべき(報酬が上がるべき)ところへ原資(人件費)が回らずに、企業として投資先を見誤ることがあるという点にご注意ください。企業としては、いくら投資してもリターンが得られないばかりか、優秀な従業員が不満を抱き退職していく(さらに多額の採用費用や教育費用をかけて採用を行う)という、大きな損失を被ることになります。
基本的には、法令に準拠し、人件費のコストアップ以上にリターン(収益)を増やすことを念頭に、人事労務管理を行う必要があります。
(1)法令で認められた制度の活用、ルール化 「不要な支出の抑止」
管理監督者、固定残業制、裁量労働制、業務の外注化等は、適切に運用することで人件費のコントロールがしやすくなります。一方、拡大解釈した運用を行うと、却って想定外の未払賃金が発生する可能性もありますので、注意が必要です。
(2)評価制度、賃金制度、賞与制度の検討・見直し 「適正分配機能」
先述の通り、貢献度の高い従業員の処遇が上がらないとモラルダウン、人材流出につながり、生産性は下降の一途を辿ります。貢献度が低ければそれなりの処遇しかできないことは当然であり、そのような制度が健全な職場環境を形成することにつながります。貢献度が高い従業員が評価され、活躍することが何より企業にとって喜ばしいことではないでしょうか。
(3)予算化 「原資の確保」
まず、本来支払うべき残業代等が支払われていない場合は、正しい計算による支払いに耐えうる原資の確保が必要です。その上で、「どのような貢献をした人にいくら払う」といったルールに基づいた予算設定が望ましいです(上記の評価制度等と関連してきます。)。これは、収益部門、製造部門だけでなく間接部門でも同様です。中小企業では、単に事業計画書に1人当たり単価×人数や前年実績ベースの人件費を計上するのではなく、個人毎にいくらの収益貢献が出来るかといった観点で予算化することをお薦めします。高い収益貢献が見込める従業員に対しては、世間相場以上の処遇をしてでも自社で能力を発揮してもらう環境を整える価値があるものです。
貢献度の高い従業員が集まり、貢献度の低い従業員が危機感を感じる(又は退出していく)組織であれば、理論的には人件費がいくら上昇しても支払い能力は伴っているので問題は生じません。逆のパターンに陥った企業は早急に改善が必要です。また、「うちは大丈夫」という企業であっても伸び悩みや、人事労務に関する課題がある場合は要注意です。改めて現状を考える機会を持ってみてはいかがでしょうか。
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