Q.平成29年度の税制改正で、従業員給与を増加した企業が優遇を受けられる所得拡大促進税制の控除税額が、さらに増えると聞きました。どのような企業が優遇を受けられますか。
また、これまでの制度との変更点を教えてください。
A.所得拡大促進税制の改正により、中小企業者(資本金1億円以下の企業など)に特にメリットが大きい制度となりました。
中小企業者は、現行制度での従業員給与の増加額の10%の税額控除に加えて、直近で高い賃上げを行った場合に、最大12%の税額控除が受けられます(大企業にも最大2%の上乗せ措置が講じられます)。
平成29年4月1日以後に開始する事業年度から所得拡大促進税制の新制度が適用されますので、これから従業員の賃上げを検討されている企業の方は積極的にご活用ください。
解説
所得拡大促進税制とは、従業員給与の支給額が増加した企業に、その増えた分の10%の税額を控除してくれる制度です。平成25年度の税制改正で創設され、大きな話題となりましたので、この制度を適用されて税額控除を受けられた企業は多いのではないでしょうか。
今回の改正では、企業のさらなる賃上げによる景気上昇を期待すべく、制度が拡充されています。具体的には、1.中小企業者の現行の税額控除に加え、一定の要件を満たす場合の税額控除の拡充、2.大企業の適用要件の見直しと税額控除の拡充が行われています。
所得拡大促進税制を理解するには、現行制度と新制度の対比が特に重要となりますので、まずは適用要件とその控除額をおさらいし、その後に改正点についてご説明します。
※所得拡大促進税制の概要・これまでの制度改正の変遷については、過去の記事もご参照ください。
▶【
法人税|知らなきゃソン!初年度でも使える所得拡大促進税制】
▶【
法人税|平成27年度税制改正大綱の解説(4)~所得拡大促進税制の要件緩和~】
▶【
法人税|所得拡大促進税制:中小企業の5割超がその制度を知らず!】
適用要件
所得拡大促進税制を受けるにあたって、下記の3つの適用要件を全て満たす必要があります。なお現行制度においては中小企業者と大企業での適用要件に違いはありません。
(1)従業員給与が一定割合以上増加していること
従業員給与の増加割合は次の算式で求められます。
従業員給与の増加割合=
当事業年度の雇用者給与等支給額-基準事業年度の雇用者給与等支給額
基準事業年度の雇用者給与等支給額
基準事業年度は3月決算法人の場合、平成24年4月1日~平成25年3月31日の事業年度です。
(2)当事業年度の雇用者給与等支給額 ≧ 比較雇用者給与等支給額
比較雇用者給与等支給額とは前事業年度の雇用者給与等支給額のことを指します。
つまり、前事業年度以上の従業員給与を支払っていることが要件となります。
(3)(当事業年度の)平均給与等支給額 > 比較平均給与等支給額
ここでの給与等支給額は(1)、(2)と異なり、当事業年度に雇用保険の一般被保険者の加入要件を満たす人で、前事業年度と当事業年度の両方に給与の支給がある人に対する給与の支給額(継続雇用者給与等)をもとに算定します。
この当事業年度の一人あたりの月額の継続雇用者給与等の支給額が、前事業年度の一人あたりの月額の継続雇用者給与等の支給額を超えていれば、この要件も満たすことになります。
税額控除額
雇用者給与等支給増加額(要件(1)の分子の金額)の10%が法人税額から控除されます。ただし、その事業年度の法人税額の20%(大企業は10%)を限度とします。
税制改正後の所得拡大促進税制
新制度での所得拡大促進税制のポイントを、上記の適用要件・税額控除額をふまえて解説します。
1.大企業の要件(3)の変更
大企業の適用要件の(3)について、下記のように変更となりました。
平均給与等支給額 > 比較平均給与等支給額
→ 平均給与等支給額 ≧ 比較平均給与等支給額
×102%
平均給与等支給額が前事業年度と比べて2%以上増加していることが要件に加わりました。ただし、この要件の見直しは大企業が対象であり、中小企業者については従前の要件のままで変更はありません。
2.税額控除額の計算の変更
【改正前】
中小企業者、大企業共通
雇用者給与等支給増加額×10%
【改正後】
中小企業者
雇用者給与等支給増加額×10%
+(雇用者給与等支給額-比較雇用者給与等支給額)×12% ※
大企業
雇用者給与等支給増加額×10%
+(雇用者給与等支給額-比較雇用者給与等支給額)×2% ※
※「雇用者給与等支給額-比較雇用者給与等支給額」は、雇用者給与等支給増加額を限度とします。
中小企業者の要件(3)は従来のままで控除は受けられますが、大企業に適用される改正要件(3)を満たせば、12%の上乗せ控除が認められることになります。なお、大企業は改正要件(3)を満たすと、自動的に適用が認められます。
現行制度の10%の増加額分に加え、前事業年度からの12%(大企業は2%)の増加額分が上乗せされることになりました。直近で高い賃上げを行った中小企業者にメリットのある改正です。
おわりに
このように、今回の改正による所得拡大促進税制の節税効果は、中小企業者を中心により大きくなっています。ただし、給与額の算定に際して細かい要件を確認する必要があるなど、適用にあたっては慎重な判断が要求されます。
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